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No.760 その初めを言いった人をゆかしく思うのです。

日本人は、忌み言葉を避け、験の良い言い回しをするのが得意なようです。
 
例えば、「スル」(掏る・擦る・擂る他)のは好ましくないので「すり鉢」は「あたり蜂」、「すりこ木」も「あたり木」、「スルメ」は「当たりめ」、「髭を剃る」も「髭をあたる」等と言い換えて縁起を担いでいます。
 
「おから(雪花菜)」は、「カラ(空)になる」という不快な意味から、形状の似ている「卯の花」などと美しく呼び直します。「猿」は「去る」に通ずるのを忌み、反対の意味の「得る」を用いて「得手(えて)公」と言われるようになったのだそうです。「シネマ」は「死ね」を連想するので「キネマ」と呼び「葦(あし)」は「悪(あ)し」から「葦(良し)」と言い換えるなど無数にあります。
 
今日は「鏡開き」です。室町時代や江戸時代の武家社会で行われていた「具足開き」がその由来だとされていました。「具足開き」とは、床の間に飾られた「具足(甲冑)」に正月の鏡餅をお供えし、その鏡餅を1月11日に小槌で割って食べることです。正月に年神様に供えた鏡餅を割って雑煮にしたり汁粉にしたりして食べることで、一家の安全や健康を願うことから「鏡割り」と言われます。これとて「鏡餅を切る」という忌み語を避けて「開く」となったのでしょう。同音異義から派生した細やかな心遣いの言葉です。
 
祝宴の会で「終わり」や「散会(散る)」や「閉会(閉じる)」という不吉な表現を避けるために用いられるのも「お開き」です。円満に事をおさめるようなアイデアル(愛である)ように思えます。最初に考えた人は、どんな人だったのでしょうね?

「三寸のお鏡開く膝構ふ」
俳人・殿村菟絲子(1908年~2000年)


※画像は、クリエイター・Atelier hanamiさんの作品をかたじけなくしました。たなごころに、温かみが伝わってきそうな作品です。お礼申します。