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No.595 五七五 泣いて笑って 暮れて行く

「歌は世につれ、世は歌につれ」とは、元NHKアナウンサー宮田輝さんの歌謡番組での名調子だったそうですが、歌と世情の関係は切っても切れないものがあります。歌は、ある意味、時代を映す鏡と言っても良さそうです。「シルバー川柳」もその一役を買っています。元号が「令和」となっても老人たちの意気盛んな句に驚かされ、笑わされ、癒され、泣かされます。どんな人生の先輩方の「心」に出合えるか、ささやかな私的解説と共にお楽しみください。

▼第19回シルバー川柳(令和元年)
応募8,793句の入選20より7作品
「四元号生き抜き迎える白寿かな」
(男性・千葉県・97歳)
●世紀越え、明治・大正・昭和・令和の4時代に生きて目前の白寿。詠嘆も清々し。
 
「初孫で娘の家まで定期券」
(男性・東京都・68歳)
●無条件に喜び、会社までの定期券から孫宅までの定期券に乗り換えた秀句です。
 
「女房から生前退位せまられる」
(男性・兵庫県・68歳)
●昭和天皇の生前退位を逆手に取った妻の陰謀?時代の趨勢を読み解いていますな。
 
「オレオレの相手をしたいほどの暇」
(男性・神奈川県・73歳)
●「潤沢」の文字がキラリンと輝きを放つ毎日サンデー。暇も人生も持て余し気味。
 
「婚活の殺し文句は『看取ります』」
(女性・千葉県・66歳)
●お主も知恵者よのう!はてさて、水戸ならぬ当のご老公はいかが判決なさいますか?
 
「筋肉は裏切らないと老いて知る」
(女性・広島県・67歳)
●擬人法が効いています。物言わずとも、筋肉の衰え筋肉の復活は雄弁に物語ります。
 
「徘徊のルートAIにも読めず」
(男性・宮崎県・67歳)
●痴呆老人のカオスには、さしものAIもお手上げ?「あ(A)ぁ、い(I)やだ!」
 
▼第20回シルバー川柳(令和2年)
応募10,663句の入選20より7作品
「脳トレを毎日してます探し物」
(新潟県、80歳、女性)
●プラス思考・逆転の発想が好き。「万歩計半分以上探し物」でも健康に貢献します。
 
「妻が言うひとまず預かる給付金」
(大阪府、70歳、男性)
●在職中は「天引き」の憂き目に遭い、退職後は「恐喝妻」からの催促に泣く。
 
「ゴミ出しの俺とカラスは顔馴染み」
(千葉県、73歳、男性)
●定年退職後、私にも月・木曜限定で近所の人より馴染みのカラスが出来ました。
 
「円満の秘訣ソーシャルディスタンス」
(北海道、77歳、男性)
●ちょっぴり悲しいブラックユーモア。物理的な距離が心の距離になるなんて…。
 
「入らない母の入歯で騒ぐ父」
(東京都、47歳、女性)
●お爺ちゃんの動揺する姿が目に浮かびます。老人はね、思い込みが激しいのダ!
 
「じいちゃんの敵は段差とパスワード」
(福岡県、53歳、男性)
●世界を悩ますパスワード。この難問を解消したら貴方はノーベル賞にノミネート?
 
「妻の留守たっぷり醤油寿司刺身」
(東京都、70歳、女性)
●鬼の居ぬ間の心の洗濯?抑止されればされる程、解放された時の反動は大きく…。
 
▼第21回シルバー川柳(令和3年)
応募16,621句の入選20より7作品
「全集中しても開かない瓶の蓋」
(大分県、66歳、女性)
●一世を風靡した漫画・アニメ『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎のようには…。
 
「『密です』と言われてみたい頭頂部」
(富山県、62歳、男性)
●「『まばらです』雑木林や頭頂部」。これ、悲しくも侘しくも厳しい現実です。
 
「薄味にしたらコロナとわめく祖父」
(福井県、56歳、男性)
●不安至極のコロナ禍です。味覚・嗅覚・聴覚・視覚・触覚は、日々老人の命綱。
 
「さり気なく背後に賞状オンライン」
(北海道、54歳、男性)
●見栄っ張り?いえいえ、なに気なく、さり気なく、心おきなく自己主張。善き哉。
 
「リード持ち散歩に出たが犬忘れ」
(愛媛県、69歳、女性)
●あなたは、長嶋茂雄と同じ匂いがします。忘れられても大丈夫、強く育ちます。
 
「名を呼ばれ誰も立たなきゃたぶんオレ」
(山梨県、58歳、女性)
●耳の聞こえにくくなった私はシビレマシタ!そんな方法の名前確認があったのかと。
 
「午後八時酒提供を止める妻」
(大阪府、58歳、男性)
●国策に基づき、家庭内でも定時に暖簾仕舞い。妻よ、あなたは偉かった、強かった。
 
さて、6月中に締め切った「第22回シルバー川柳」(令和4年)の入選発表は9月だそうです。年々応募総数が増えているという事は、優秀作品も比例していくことでしょう。審査員泣かせのコンテストに成長しているようです。
 
2015年のシルバー川柳に、
「老いるとはふえる薬と減る記憶」
(愛知県・68歳・女性・)
というのがあります。笑いたくても笑えない、これまたシルバーならではの魅力です。