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No.916 人と人に橋を架ける人

昨日、四半世紀近く前の卒業生が母校を訪れ、講演してくれました。

地方公務員として出発し、次から次と与えられる仕事に悶々としながらも、諦めずに続けることで、どの部署からもスキルアップすることが出来ました。そして、地方から中央へと活動の機会を得、場所を与えられるや、磨きをかけた度胸と愛嬌と先見性と厚かましいくらいの実行力で、それに相応しい結果を残してきました。

全国のネットワークをつなぎ官民で協同する事業は、一からのスタートだったようですが、事務方トップとして身を粉にして働きました。さらに、新たなる部署で世界ともつながる大舞台に立つ仕事も担当するなど、まさに八面六臂の活躍をしている女性です。

そんな彼女に学校の理事長が白羽の矢を立て講演依頼をしたところ「母校の皆さんのお役に立てるなら」と多忙を割いて招請に応えてくれたのでした。

中学・高校生を相手にお話しするのは初めてだったそうですが、生徒たちは身じろぎもせず、食い入るように彼女を見つめて聴きました。若者たちの心を惹きつける語り口調は穏やかで耳障りよく、間が絶妙な話術は効果的で、メリハリをつけました。

優しさの中にも凛とした芯の強さがにじみます。体験的で具体的な話がちりばめられており、そこから導き出した彼女なりの思想や人生哲学がありました。生徒たちは、普段の学校での学習とは異質の説得力、仕事に対する大人の女性の情熱をビンビン感じている様子です。両者の気が通っていました。

その後、昼食を取りながらの懇談会が行われました。公務員の仕事のこと、学生時代のこと、進路のこと、勉強方法、その他、次々に生徒からの質問が飛び出します。その一つ一つに丁寧に誠実にこたえる彼女は、ついに自分の食事がとれませんでした。それほど彼女に対する生徒たちの関心と、教えてもらいたいとする強い気持ちが伝わって来ました。

大胆にして細やか、女性としての嗜みの美しさも実に魅力的です。生徒たちも、そんな彼女のお人柄に「ほ」の字の様子でした。忘れ難い時を与えてもらいました。

今日の講演会に参加させてもらったのは、5日ほど前に、彼女から懇切なるお手紙を頂戴し、「都合がつくなら参加してほしい。」という案内があったからです。ワクワクするお便りに、身の幸せを感じた次第です。

彼女の発表を聴きながら、
「ああ、この子は、出会う人ごとに単独の関係で終わらせるのではなくて、人と人との橋渡しを人生の課題にしながら仕事をし、生きているんだな。人と人に橋を架ける人だ。」
と強く思いました。それ故に築いた人脈の橋は、ハイウェイのように全国をつないでいるのではないかと思われました。それが、ひいては多くの人々の役に立つ何かと結びつくのだという事を信じて…。

私には、親子ほども歳の差の離れた彼女の「健康」と「幸せ」を祈る事しかできません。仕事や社会や組織の中で、誰もが「怏々と」(不平不満を心に抱く)しながら生きています。しかし、詩人の吉野弘(1926年~2014年)さんは言うのです。

怏(おう)の中に快がある
「怏」は、心楽しまぬこと
「快」は、心楽しむこと

『吉野弘全詩集』全1巻(青土社、1994)「怏と快」662ページ

彼女にこの詩人の言葉を贈りたいと思います。「怏」の中に「快」を見つけながら、心豊かにご自分の道をきわめて行かれますように!