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No.557 逆転の発想これにあり!

ことの真偽は定かではありませんが、「しゃっくり」は、横隔膜の痙攣と声門の閉鎖が原因だと一般的に言われています。重篤なものや、長患いのしゃっくりは別として、日常的なしゃっくりを止めたい時は、民間療法も含めどうしていますか?
 
私が子どもの頃は、お椀に水を注ぎ、その上に箸を十字に交差させて置いて神棚に供え、
「神様、どうかしゃっくりを止めてください。」
とよくお願いをしてから、件のお椀を両手で持って、十文字を切った三方から水を飲むと良くなると教えられました。あら、不思議、治る時もありました。けれども、止まらない時もありました。私の念じ方、心の籠め方が足りなかったからでしょうか。
 
「ワッ!」と驚かせてもらうのには人手が要りますし、飲み物(水)や食べ物(レモンを噛む)がない時、それらの方法は使えません。となると、一人で、効果的にしゃっくりを止めるやり方は、何なのでしょう?
 
1)息を止めて吐く方法
これは、ゆっくり限界まで大きく息を吸い込んで、15秒前後息を止め、今度は、ゆっくりと息を吐くやり方で、これを繰り返すのだそうです。また、紙袋を用いて息をすることも、息を止めるのと同じような効果が期待できるそうです。
 
2)両耳に指を入れる方法
迷走神経を刺激するために、両耳の穴に指を入れて30秒~1分程度押さえ続けると、比較的に効き目があるそうです。
 
3)膝を胸につけて前に屈む方法
膝を胸につけて前かがみの姿勢になると、胸が圧迫されて横隔膜に圧力がかかることで、しゃっくりが止まりやすくなるのだそうです。
 
 さて、医師や医療関係者が教えてくれた上記の処方術とは、全く違ったやり方で「しゃっくり」を止める方法を、小説家の向田邦子が『無名仮名人名簿』の中の「コロンブス」で体験談をもとに書いています。
 
「(略)たしか女のかたの投書かなにかで、しゃっくりのとめ方というのがあった。それは、『うしろへ歩く』ことだった。」
と、意外な対処法を開陳するのです。もう、興味津々で、引き込まれてしまいます。
 
「うしろへ歩くためには、筋肉は普段と違った運動をしなくてはならない。それが、横隔膜の振動をしずめる力があるというのである。筋肉もびっくりするのかも知れない。(略)」
彼女は、後ろを振り返ってからうしろ向きに歩き出しました。簡単そうでいて難しい。街中の舗道では、物にぶつかりそうになるばかりか、向こうから歩いてくる人々のいぶかしげな表情と視線が堪えます。
 
自動車のバックならぬ人間バックという聞いた事もないしゃっくり対処法でしたが、さて、結果はどうなったと思いますか?
「(略)きまりが悪いのとおかしいのとで、ものの十メートルもいったところで足をとめた。しゃっくりはみごとにとまっていた。」
 
通行人の冷たい視線を浴びながらの、みっともないような、恥ずかしいような向田バックは、心理的にも肉体的にもプレッシャーを感じてナイーブになったことでしょう。その強迫観念的メカニズムが、しゃっくりすることさえも忘れさせてしまったのでしょうか?
 
1回きりの体を張った彼女の報告エッセーでしたが、経過観察の必要ありと考えます。その志を受け継いで「我行かん!」と男を上げたいところですが、いかんせん、しゃっくりが出る程食べられないお年頃です。それにしても、邦子さんは、えらかった!