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No.416 人としての矜持を持ちたいと思います。

 アメリカ第16代大統領エブラハム・リンカーン(1809年~1865年)は、心の折れそうな人生に何度も見舞われながら、志を貫き通した立志伝中の人です。

 9歳、母親ナンシーが34歳で病没。
19歳、それまで面倒を見てくれた姉サラが21歳で死産の為に急逝。
21歳、事業に失敗。
22歳、州議会議員選挙に落選。
24歳、またもや事業に失敗。
26歳、恋人アンが病没。
27歳、精神を病む。
34歳、下院議員選挙に落選。
36歳、下院議員選挙に落選。
45歳、上院議員選挙に落選。
47歳、副大統領になること叶わず。
49歳、上院議員選挙に落選。
51歳、第16代アメリカ合衆国大統領就任。
55歳、アメリカ合衆国大統領に再選。
56歳、劇場で暴漢(俳優)に至近距離から狙撃され、翌日死去。
(年齢には、数え方のずれがあるかもしれません)

 すさまじい人生、度重なる失敗と落選という苦難の人生だったことが読み取れます。しかし、そのたびに諦めずに立ち上がり、悔しさをばねに這い上がった人、それがリンカーンでした。

 そのリンカーンには、次の名言があります。

「あなたが転んでしまったことに関心はない。そこから立ち上がることに関心があるのだ。」

 いつ、どこで、誰に向けたリンカーンの言葉だったのか、なかなか行き当たらずにいます。この「あなた」は、我々一般人に向けられた「相対的な人」を意味するのか、たまたま「転んで(失敗して)しまった目の前のある政治家」を意味するのか、それとも「自分自身」を第三者的に呼んだものなのか、わからずじまいです。「転んだ体験」の多かったリンカーンが、自戒を込めて人々に発した激励の言葉ではなかろうかと私はとらえています。

 1月18日付の讀賣新聞のコラム「編集手帳」に興味ある話が載っていました。一部抄出ですが、次のようなものでした。

「(略)◆人生が思い通りにならないからといって、他人を無差別に傷つけようとする事件が続く。大阪市の心療内科への放火殺人はむろん、東京の私鉄に放火した男は映画『バットマン』の悪役を気どり、死刑になりたかったと動機を語った◆迷惑を被っただろうこの映画には、良識に満ちた執事のこんなセリフがある。『人はなぜ落ちるのでしょう?より良いはい上がり方を学ぶためです』。学ぶ機会は平等にだれにでもありそうだ。」

というものです。大学入学共通テスト初日に東大前の歩道で3人に刃物を向けた17歳の高校生の事件を取り上げたコラムでした。

 コラム氏の言う『バットマン』とは、2005年(平成17年)の英・米合作映画『バットマン ビギンズ』のことで、その中の一コマを紹介しているのでしょう。
  ブルース「ゴッサムを救いたかったけど、ダメだった」
アルフレッド「人はなぜ落ちるのだと思われますか?落ちることで、はい上がることを学ぶことができるのです」
 ここにいうブルースとは、大富豪のトーマス・ウェインの息子ブルース・ウェイン(バットマン)のこと、アルフレッドは、ウェイン家の執事のこと、ゴッサムとは、ゴッサム・シティー(街の名)のことです。

 このやり取りは、あのリンカーンの名言を踏まえた至言だと私は思いました。「立ち上がる事」も、「はい上がる事」も、人としての矜持であると、そう思いました。

【お詫びと訂正】昨日のコラム415で、歌会始に選ばれた香川県小豆島の藤井哲夫さんの歌を、教え子の同窓会に出席した折の作品と紹介しましたが、ご本人の出席した古稀の同窓会の折の事を詠んだ歌でした。お詫びと訂正をさせていただきます。藤井さん、ごめんなさい。