No.1303 全方位型糾弾方式?
『徒然草』(下)第220段「何事も辺土は」の中で、天王寺の楽人の言葉に「指南」(一部抄出)の語がありました。
「寒暑に随ひて上がり下がり有るべき故に、二月涅槃より聖霊会までの中間を指南とす。秘蔵の事なり。」
(寒さ暑さにつれて、鐘の音には高低があるはずだから、二月に行われる涅槃会から聖霊会までの間の音を指針とします。これは秘伝とするところです。)
「指南」の語は、中国の方角を指し示す「指南車」に由来すると言われます。「指南車」とは、文字通り南の方角を指す車です。戦場において方位を特定するために作られた車で、中国古代の三皇五帝の一人「黄帝」の作とも周の時代の政治家「周公」の作とも言われると説明されています。
「指南車」の車の上には、仙人の形をした人形が載っており、車が動いてどの方角を向いても仙人の手が一方向の「南」を向くように設計されていたといいます。私は、方位磁石の応用かと思っていましたが、左右の車輪の回転の差から機械的機構により方位を特定する仕組みであったといいますから、古代中国人の知恵に感服します。日本でも斉明・天智天皇の7世紀後半には、指南車を製作したことが『日本書紀』で知られるそうです。
1989年(平成元年)の「成人の日」の「青年の主張全国大会」で、発表弁士の一人が、
「『あんたが悪い!』と人を指さした時、残りの指は自分を指しているのです。」
と述べました。その時、TV画面の前で大いに納得し感心したことを覚えています。
人を糾弾せんばかりの人差し指ですが、なるほど、中指・薬指・小指は、しっかりと折れ曲がって自分の方を向いているではありませんか。糾弾されるべきは、その3倍の自分か?なんとも盲点と思える指摘でした。
人のことを言う前に自分のことはどうなのだと、自分にも突き付けている指に気付かずに三十有余年を過ごしていた私でした。若者から言い当てられ、まさに「指南」されたようで赤面至極でした。
あの日以来、私は人差し指で人をささず、指を全部「パー」に伸ばして指さすようになりました。ブーメラン式糾弾ではなく、全方位型糾弾方式を採用しています。
※画像は、クリエイター・執筆 山猫堂さんの、タイトル「特別編 習慣(週刊)・山猫堂 2022年2月第3週」の「人差し指」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。