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No.532 二人の女性の声

もう、ずいぶん前のお話で、夏の甲子園大会出場を賭けた、高校野球大会県予選が続いていたある日のことです。

学校近くにある個人商店に昼食用のカップラーメン(1個)を買いに行きました。懇意にして下さるそのご夫婦は、実入りに全く貢献しないこんな私でも大事にして下さる有り難い商売人です。

レジにいた奥さんに100円渡したら、
「昨日の野球の試合、勝って良かったですね!うちの父さんったら、ずうっとテレビ観ながら応援してて、ちっとも店に出て来なかったんですよ!」
と、いささかご不満の口ぶりです。家業そっちのけで、近くの学校の応援をしてくださっていることを知り、本当にありがたく思いました。

人は、こうこうだと面と向かって言わないけれど、スポーツに限らず、こんな形で誰にも知られずに応援されていることがあるようです。目には見えないし、耳には聞こえないかもしれないけれど、声なき声援を心と背中で聴いて、感じて、励みたいものだと思います。

話は変わりますが、ある日曜日、学校で漢字能力検定が行われた日の事です。私は、試験監督をしていましたが、校舎の2階の教室の窓際からふと外に目をやったら、思いがけない光景に出くわしました。

学校前にあるロータリーのバス停に、白い軽ワゴン車がスーッと来て止まりました。何事かと思って見ていたら、50代の女性がビニール袋を持って出て来て、バス停のゴミ捨て缶にあったゴミを集めると、後ろのトランクを開けてポンと積み込みました。トランクにはゴミ袋が幾つか載っていました。白い軽ワゴン車は、そそくさと去って行きました。

たった1分足らずの出来事でしたが、日曜日の朝、誰にも知られることなくゴミを集めて回る善意の人がいるということを、この時初めて知りました。平日は、生徒の掃除当番がゴミを片付けてくれているはずですが、土曜・日曜に溜まったゴミは、地区の人のこのような「無償の行為」によって美化が保たれているのでした。「きれいにしたい」という声なき声の女性の手慣れた姿に頭が下がりました。私には、そこだけ輝いて見えました。