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No.837 To You.(あなたへ)

春に降る雨だから「春雨」です。「菜種梅雨」の異名もあり、菜の花が咲くこの時期、つまり、3月下旬から4月上旬にかけてのぐずついた天候のことを言うようです。
 
私のような昭和20年代に生まれた者には、映画『月形半平太』(1952年)の中での長州藩士・月形半平太と舞妓・雛菊のやり取りのシーンが思い浮かびます。
「月様、雨が…。」
と雛菊が蛇の目傘を差し出そうとすると、
「春雨じゃ、濡れて行こう。」
と軽く右手で遮り去ってゆく、シビレル態度、シビレル台詞なのです。
 
1991年(平成3年)春の読売新聞の川柳欄に、
「春雨じゃ 濡れては行けぬ 酸性雨」
という主婦の投句があって、唸ってしまいました。前述の半平太の名調子をもじった皮肉ですが、その昔、世界的な問題となった酸性雨に掛けた風刺、ブラックユーモアです。
 
実は、ドイツでは、1970年代(昭和40年代後半)から樹木の立ち枯れ・衰退が観られるようになったといいます。その原因は、酸性雨や大気汚染といった環境問題が大きいとして国際的に注目されました。その後の調査で、西ドイツ南西部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)の河川で、酸性物質の量が自然水の数倍というかなり高い水準を示したという結果も報告されています。
 
我が九州でも、1987年(昭和62年)にpH2.5という強い酸性の雨が鹿児島市で観測されたことがありました。原因は、桜島の火山噴出物の影響によるものだったそうです。1例を上げれば、温州ミカンの生ジュースの糖度は11.7度、PHは3.6 前後だそうですから、生ジュースの雨を浴びる程の酸性雨が降った日もあったということになります。
 
春は、黄砂の影響が少なくありません。また、酸性物質を含む排煙・排ガスなどの大気汚染も酸性雨に拍車をかけます。1990年(平成2年)から5年かけて行われた調査で、九州地区でpH5.6以下の雨水が観測された地点が80%以上であったともいいます。
 
これらの事実は、先進国、開発途上国を問わず世界的な課題です。
「春雨じゃ 濡れては行けぬ 酸性雨」
は、30年以上経った今も忘れてはならない警句として、人々の心に釘を打ち続けています。
 
「『春雨じゃ』 気取ってみせたが 風邪をひき」
枯れすすき(2013年3月25日、川柳サークルサイト「Sencle」より)


※画像は、クリエイター・ミムコさんの、「雨傘に春の欠片。」をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。