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パラサイトのサウンドデザインで感じた事

遅いですが、映画パラサイト、本日見てきました。
映画館は成田で、朝イチ上映でしたが、なんと満席、、。
映画は1人派、しかも空いてる時期、時間を見計らって映画に行っていたので
他人と隣同士で映画を見るのは初めての体験でした。


意見
パラサイト、サウンドデザイナーとしての意見を述べさせていただきます。上手い下手でいうと下手な部類ですが、音楽と効果音に個性と信念を感じました。同時に、「それでいいんだよね、やっぱり」とも感じました。
それと、これを当然とやってのける事に羨ましさも出ました。


軽く映画音の歴史
日本映画の音制作環境は、90年代にTHXスカイウォーカーサウンド
ハリウッド勢と多く連携をとり、日本国内にもTHX認証のスタジオや映画館が多く出来ました。
制作手法も日本にも定着させようと、セリフ録音の仕方とか、フォーリーの足し方、ProTools内のトラックの作り方まで、ハリウッドからコピーしました。
それだけでは足りず、制作撮影を日本で、音の作りと仕上げをハリウッドで行い、大コケした映画も沢山あります。
(その橋渡しを頼まれ、断った過去もあります。)

そのハリウッド手法は確かに合理的でしたが、常に「足し算の手法」
日本人の得意とする「引き算」が出来ません。

車で言うと、「ロータスが軽さを加えた」と言ったのと同じように
日本にも「引き算の美学」があるわけですが
ハリウッド手法だと、この考えがあまりなく、常に足し算してトラックを埋めていく、または重ねていく手法でした。
もちろん繊細にコントロールされていたものも多くあると思いますが
それは「足りない」「つまらない」と捉えられがちでした。

そしてこの時期に、日本っぽい音は、古いもの、つまらないもの
と捕らえられて、使われなくなりました。

先輩から後輩へ受け継がれる事も無く、
皆ハリウッドに負けないぞと、似た方向で攻めた訳です。


輸出
映画の多くは輸出され、母国語に吹き替えられ、上映される事が多いです。
ハリウッド映画は吹き替え前提で作られているので、セリフだけを消せるように作られてます。
セリフは通常、撮影現場で録音されるので、それを消すと、その周りの環境音や足音、衣ずれとかの音も消えてしまいます。
なので、セリフ以外の現場っぽい音は足し算して作ります。
これをフォーリーと言います。

この現場っぽい音のみを作ってるフォーリーアーティストという職業もありますが、このパラサイトには、それが殆ど無かったのではと思います。
足し算した足音が数カ所目立ちましたが、馴染んでなく下手に感じました。でもそれでいいんです。そこが個性です。

大きな足し算はハリウッドの手法と予算だから出来る技なのです。
予算が音に多く取れない場合は、別の方法をしかありませんし
それが個性になるわけです。

日本映画制作は、「こうでなければ」という「形」を意識しすぎて
各部署で首を絞め合ってます。


パラサイトの音
効果音が目立ったシーンは、岩で頭を殴る、包丁で刺す、くらいでしょうか。
この2シーン、映画ではよくある演出で、殆どハリウッドの効果音会社が発売している、ライブラリーを使って作られます。

この会社の効果音ライブラリーはとてもよく出来ており、とても日本では録音出来ないような音も沢山入ってます。
自分も沢山購入しており、今月も20万円分購入しましたが、
これは勉強に聞く、もしくは素材としてホンノリ使う程度です。

効果音の仕事をしていると、大体音を聞いただけで「あのCDの音だ」とか判断つくのですが、パラサイトのそのシーンではそれがわかりませんでした。
恐らく、作った音なのではないでしょうか。
いずれにせよ、他に無い、個性がありました。


パラサイトの音楽
全体を通して、音楽が耳につきませんでした。
こういうのは映画音楽としては最高の出来といわれます。
足りない部分を補う様な音楽演出は殆ど無く、とても控えめでした。
邦画やハリウッドでは、常に音が鳴っている印象がありますが
無音楽演出が多かったです。
その分、セリフに耳が行き、内容が入ってきやすいです。


それでいいんですよね
映画って自由なので、その時出来るベストな事や
その予算内でベストな事をすれば良いと考えてます。

パラサイトの音は、シンプルで強い信念を感じ、
それが半地下に生きる方々の、どこか寂しい、虚しさ、格差とか。
そんな事を音からも多くを感じれました。

最低限の音表現で、最高の音演出が出来てるなと感じ、
とても勉強になり、そして「やっぱりそれでいいんだよ」と感じれました。

これは恐らくウィーアーリトルゾンビーズのサウンドデザインをさせて頂いたのと同じ考えで、出来る範疇で強い物を!という事なんだと思います。


まとめ
パラサイトの音は素晴らしかったと思います。
邦画も、負けないように、自分達の音を攻めるべきと感じ、
自分も負けないように、これからも音を作り続けたいと思います。

例えば、以下の14番目の音の様に、特徴あって皆が知ってる効果音。
こんな物を作って行けるように、日々精進していきたいです。


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