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ディズニープリンセスで読み解く、変わりゆく女性の在り方

こんなタイトルのnoteを書くのだから、さぞかしディズニープリンセスが好きな子供だったのだろう。そう思われるかもしれない。

正直に言うと、私はディズニープリンセスに憧れたことなんてなかった。
それどころか、幼少期に見た白雪姫とシンデレラが生理的に合わず、以来ディズニープリンセス作品は長い間観ることを拒んできた。

そんな私が、ここ2年くらいでディズニープリンセス作品をセリフが染み付くまで観倒している。
ディズニープリンセスの歴史を読み解く事で、その時代ごとの少女たちの理想、志、時代背景が垣間見れた。
このnoteでは、そんなディズニープリンセスの向こう側に見えた私なりの解釈を綴っていこうと思う。

待っているだけだったプリンセス

そもそも私が幼少の時にVHSビデオで見たプリンセスといえば、白雪姫、シンデレラ。
この二つの作品は舞台や時代背景は違えど、軸はかなり似ている。
「美しい少女が その美しさゆえに義母の逆鱗に触れ、不憫な生活を強いられる。それを救う王子様をひたすらに待ち、やがて結婚する」という構図。

私にはどうもむず痒かった。
どうしてこんな「お人形さん」みたいな女の子が主役なんだろう。王子様がいなければ、この子は一生このままおばあちゃんになるまで待つのだろうか。
同じ時期にテレビで放送していたセーラームーンに出てくる女の子達は、自ら戦って世界を救っているというのに。
幼い胸で抱いたその違和感は、嫌悪感にも似ていた。

「つらくても文句ひとつ言わず耐え忍ぶ」
「ひたすらに王子様を待つ」
「結婚が最大のゴールにして幸せとされる世界観」

どれも平成の時代には明らかにそぐわない。
私が子供の時に感じた違和感の正体は、時代錯誤な女性像そのものだった。

それもそのはず、この二つは私が生まれるよりかなり前に作られた作品なのだ。
白雪姫は1937年、シンデレラも1950年。想像以上に歴史あるアニメーションだ、白雪姫なんて終戦前というから驚く。
(私が見たのはきっと1980年リメイクのものだと思うけれど、話の大筋は変わっていない。)

2つの作品は”結婚”で物語が終わっている。「女性は結婚が人生のピーク」と言わんばかりだ
でも、少なくともこの2作品が作られた時代の女性は実際にそうだったのだろう。
かつて女性は、結婚し家庭に入れば家族を支える影役者になることが当然だった。自分の人生の主役は結婚を機に早々と降板し、その後は夫や子供達に舞台の成功を委ねる。
そんな時代背景があぶり出されている作品だ。

動き始めたプリンセス

前章であげた2作品から間が開いた後、リトルマーメイドのアリエル(日本では1991年)が登場する。
この作品は原作「人魚姫」の悲劇的なラストをハッピーエンドに変えてしまうという、ディズニーらしい(けして良い意味ではない)解釈をしている作品なのだが、主人公のアリエルの性格に注目すると、前章の2人とは明らかに違う「自己」を持っていることがわかる。

文句も言わずただひたすらに耐えた「お利口さんタイプ」の前者2名に比べ、アリエルは「天真爛漫なわんぱく少女」。
自分のやりたい事を優先し、愛したものには命を懸ける。

前者2名と違い「自分から王子様に恋をする」という構図も、受動的ではなく新しい時代を感じる。

また翌年1992年に日本上映された美女と野獣のベルは、アリエルとはまた違うタイプの新しさがあった。
ベルは「女が文字を読めたら、結婚できない」と後ろ指を指される様な世界で、ひたすら本を読みふける風変わりな美人として描かれている。
そんな中で彼女の学びたいという想いを尊重してくれる野獣と心寄り添っていくわけなんだけど、これって今までの話に比べて相当リアルな恋の落ち方じゃないですか?(声が大きい)

もちろん現実の男性は野獣の姿にはならない。山月記じゃないんだから。
だけど、「女性が賢いことを煙たがる」っていう現象はこの時代世界中で起きていたんじゃないだろうか。
そんな中でも着々と、次の時代を担う女性が育っていく。その子達が幼少期みたのがこの美女と野獣だったと考えるととても感慨深い。

ただ、アリエルもベルも最終的には王子様がハッピーエンドの鍵を持っていることに違いはなくて、ゴールイン後は物語の中で語られることはない。
そういう意味では本質は変わっていない、この時点ではまだ「女性は結婚が幸せのピーク説」は健在である。

人種を超え始めたプリンセス

美女と野獣までは白人しか対象でなかったプリンセスだが、その後アラジン(日本では1993年)で有色人種であるジャスミンがプリンセスとなる。
当時は私も子供だったので何も考えずにみていたが、有色人種への強い差別が問題視されていた世界情勢を考えると、これは大きな一歩だったと思う。

そして1995年のポカホンタスでは、ディズニープリンセス初のノンフィクション(表向きは)作品となり、白人男性ジョンスミス(実在の人物)と首長の娘で有色人種であるポカホンタス(実在の人物)との恋を描いた。
恋、とはいうものの、実際はアメリカ先住民と開拓時代の白人との関係性をアメリカナイズに描いた作品だ。

ポカホンタスは初めて知った愛と、民族への帰属意識の間で揺れる。そして最終的には自分の今の生活を選び、愛する男性にはついていかないままに終わる。映画版は。

ディズニープリンセスの中ではじめて、恋よりも自分の役割を選んだ女性。それがポカホンタス。
話の大きさは違えど、自分の仕事を優先したいから恋愛や結婚を犠牲にしている女性は今では少なくないと思う。でもそれってシンデレラが作られた時代では考えられないことだったんだろうな。
そう思えば、このポカホンタスは時代とともに動く女性の社会進出を表していると思う。

余談になるけれど、ポカホンタスは音楽も映像も素晴らしく、終わり方も含めて私の一番好きな作品。
でも「ノンフィクションか」と言われると、正直アメリカ側の押し付け・いい話にしたい感がひしひし伝わってきて作品を楽しめない。あくまでフィクションとして楽しむなら、という前提付きでオススメしている。

冒険するプリンセス

セル画も廃止され、すっかりCG一色になった頃、ラプンツェルが登場する。
義母に利用されて続けてきた狭い塔を抜け出し、本当の両親(王様)の元に帰り、愛する男性とも結婚ゴールイン…
っていう流れを見ると、正直白雪姫の頃と変わってないな感は否めない。

でも、細部を見ていくと格段に成長している。
自ら考えて行動・計画し、それを決行するために男を利用(!)し、自分の足で冒険し危険な目にあいながらも、けして「助けてもらう」ではなく自分の道を切り開いている。
このたくましさは、白雪姫にはない。

もう恋愛じゃないプリンセス

そして2013年、ここにきてアナとエルサ。
ご存知の方が多いと思いますが、この作品では王子様がプリンセスであるアナを裏切るんですよ。
信じられないでしょう?白雪姫世代のお嬢ちゃんが見たらトラウマものですよ。

その後アナは王子様ではなく一般人の男性と恋に落ちる。でもそれはあくまで物語の産物として。
この話のすごいところは物語のメインを恋愛に消費しなかったこと

恋愛の話はあれど、メインテーマはやはり姉妹愛。家族との絆なんですよね。これはディズニープリンセス界の中では衝撃的。

その後2016年に登場したモアナに関しては、恋愛のパートナーすら出てこない。(マウイは恋愛ではないので)
完全に家族愛、そして民族の長として過去と未来を繋ぐことに焦点が当てられている。

白雪姫をみて、白馬に乗った王子様が来るのを夢見たあの日の少女。
モアナを見て、いつか自分自身がこの時代を切り開こうと夢見る現代の少女。
同じディズニー作品でも時代が変わればここまで違うとおもうと、その柔軟さが長く愛される秘訣なのだと納得してしまう。

その時代を担う女性像こそがプリンセス

ざっとディズニープリンセスの歴史を見直してみて改めて感じるのは、各プリンセスがその時代を生きてきた女性の象徴だということ。
私がずっと「ディズニープリンセスって痒い…」と思っていたのは、ドレスを着て王子様を待っているプリンセスしか知らなかったから。
プリンセスだっていつまでも待ってばかりではいられないのだ。

もっと言うと相手役とされる男性も、上映当時の理想の相手像と言えるから面白い。
戦後まもなく世界中が不安定だった頃の作品、シンデレラや白雪姫の時代はは、お金も地位もある包容力のある男性が好まれたはず。正しく王子様!

しかし女性自身が活躍できるようになった現代、ラプンツェルやアナの相手はどうだろう。
プリンセス自体が王家の血筋を持ち、相手が居なくともプリンセスの立場は揺るがない。(シンデレラや白雪姫は一般人だったので、そもそも王子様と結婚しなければプリンセスにはなれなかった)
お金も地位もないけれど、彼女をよく理解し、繰り出される無理難題を叶えてくれるユージーンやクリストフ。まさに現代に求められる理想のパートナー像だなと思う。

これからもディズニー社が続く限り新たなプリンセスが登場していくと思うけれど、その背景にある「現代の女性像」に焦点を置くと、違う楽しみが見つかるかもしれない。
次のプリンセスは一体どんな姿を見せてくれるのだろう。そう思うとワクワクする。

「女性らしさ」なんて言葉自体がナンセンスになっている昨今。
男の子のプリンセスがみられる日も、そう遠くはないかもしれない。

【最後に】
ここでは文字数の関係で実写化プリンセスについて何も語っていないですが、実写化するタイミングでストーリーや解釈もアップデートされていることが多いので、興味のある方はぜひそういう視点で楽しんでいただけたらと思います。

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