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初めての個室とポルターガイストな話



 突然ですが皆さんは心霊現象、例えばポルターガイストと言われるものを信じていますか?私はというとそういった知識も霊感もなく、一点の曇りなく信じていませんでした。

 そんな私が今では、「まぁ、心霊現象とかあるよなぁ〜」と思うきっかけになった過去の出来事のお話をさせて頂きます。

 18歳という多感な青春時代、私もご多分にもれず悶々とした生活をしておりました。大学に行くほどの学力もなく、また我が家の財政的に実家を離れるという選択肢もないなか、必死に親の脛をかじりまくり、有難いことに何とか短大生という身分を得ることができました。

 無償で住まわせてくれる場所があるのはありがたいのですが、昭和な趣もある我が家には個室というものがなかったのです。小中高通して『自分の部屋』というものは存在せず、全方位ふすまだらけという、プライベートもクソのない部屋で生活しておりました。とはいえ、多感な思春期真っ只中。やはりどうしても個室というものが欲しかったのです。

 「いやいや、僕ももう18歳だよ?例え高校時代がむさ苦しい男子校だったとしても、否応なしに『彼女』という幻想を意識せざるを得ないお年頃ですよ。そりゃあまぁ、個室の一つも欲しいのですよ」

などとお風呂の壁相手につぶやいたものです。

 とはいえ前述の通り我が家は古い昭和の木造住宅。全室オールフリーの襖張りなので、そもそも入口が一つしかない部屋というのは2階にある祖父と祖母の部屋しか存在しなかったのです。

「あ〜こりゃ、少なくともあと2年は個室なんて夢のまた夢だわ〜」


 などとすぐ近くの絶望さんに軽く挨拶していると、突然脳内に電光石火の如く稲妻が落ちてきたのです。後に知ったのですが、実際に脳内に稲妻が落ちたら完全にこの世にいないそうなので、現実にはそんな気がしただけでした。
 
 まぁ、要は閃いた訳ですよ。何をって、それはプレハブという選択肢です。そう、我が家には使われることなく完全に物置と化していたプレハブがあったのです。こいつを自分の部屋にしてやろう!そうと決まれば、中の荷物を片付け、長年に渡って染みついた由緒正しき汚れを落として何とか人間が住めるようにプチリフォームを慣行。18歳にして『自分の部屋』を生まれて初めて手にしたのです。あの感動はおっさんになった今も忘れません。


 前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。やっとこさ冒頭に述べた心霊現象a.k.a.ポルターガイストの登場です。プレハブ部屋に住み出してすぐの私はヒャッハーのウェーイ状態でした。念願叶って手に入れた個室は『離れ』なうえに上下左右に気遣いすることのない快適住居。当然アダルティーなビデオも見放題なわけですよ。18歳の私はそりゃもうこの世の全てを手に入れたような錯覚すら覚えたものです。とにかくそんなこんなで有頂天を満喫する生活を始めて2〜3か月ほどした頃、『それ』は突然にやってきました。

 真夜中にベッドに入っていると、どこからか赤ちゃんの鳴き声が聞こえてきたのです。「こんな時間に夜泣きかぁ〜」などと思っていたら、突然ものすごい勢いで、

ドンドンドンッ!ベキベキベキキッ!

という部屋の壁を叩くような怪奇音が壁という壁、はたまた天井からも聞こえてきたのです。叩くようなと書きましたが、体感的には完全に誰かが猛烈な勢いで叩いてる音でした。私は咄嗟に友人が悪ふざけしに来たのかと思いドアを開けて辺りを見回しました。そこには友人はおろか猫の一匹として存在していませんでした。そして、あろうことかドアを開けたら謎の怪奇音も止むではありませんか。どうやらこういう時、人間はまず首を斜めに捻るように出来ているようで、間抜けずらした青年が「んん?」と左右に首を傾けている姿だけが悲しく月光に照らされていました。多分。

 全く腑におちないけれども、とはいえ音の正体もわからないので、一度深呼吸して改めてベッドに潜ると、あろうことかまたあの

ドンドンドンッ!ベキベキベキキッ!

という怪奇音が鳴り出しました。正直何かが尿道からこぼれ落ちそうになりましたが、意を決してもう一度ドアを開けると、また音は止み夏を告げる虫たちのさえずりが美しいハーモニーを奏でていました。「月が綺麗ですね」心の中でそんなことを思いながら、結局のところアダルティーなビデオを見過ぎたせいだろうと無理やり結論づけその日は寝ることにしました。

 しかし、しばらくそんな夜が続いたある日、とんでもない事に気づいてしまったのです。この心霊現象自体は週3〜4回の頻度で起きてたのですが、その時間は決まっていて概ね夜中の12時だったのです!そして毎回夜の12時に怪奇音が鳴り響いても、実際のところ全くと言っていいほど何の悪影響もないのです!何かが出てくるわけでもなく、徐々に身体に異変が起こるわけでもなく、ただただ夜の12時に怪奇音が鳴る。それだけだったのです。

 そうなると最早ただのアラームのようなもので、赤ちゃんの鳴き声が聞こえ出してドンドンドンッ!ベキベキベキキッ!と音が聞こえて来たら

「あ〜、もう12時か〜。じゃあ、そろそろ寝るか〜」

 いつしかその程度の認識になっていったのでした。そして気がついたらいつの間にやら怪奇音が鳴り響くことも無くなっておりました。
 そんなこんながありまして、今では『心霊現象は存在するが、必ずしも悪影響があるわけではない』といった認識になっています。

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