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バス運転手体験記―50代のオジサン運転人生、免許をいろいろとってみた#8

第5章 バスの運転手になった!(続)

実車研修

 見習い研修を終わり、次はいよいよ実車研修です。

 実際に運転して、横に指導の運転手が乗ります。運転もしないで新人に一日つきあうのですから、申し訳ない限りです。

 研修を担当してくださった運転手の方は、大手のバス会社にいて、定年後に移って来られた方でした。

 回送のときには会話も弾みます。

 「○○さん。見たところ『お堅い』仕事してたみたいだけど……」

 これ以上聞くのも、という感じで、ことばを濁しながら聞かれました。

 「○○関係の仕事が主で、○○もしてました。今も、仕事は続けています」

 「ああ、そう。これだけじゃ、食べて行けないもんね。どれくらい来るの?」

 「基本、週1です」

 バス会社の裏事情なども聞かせてくれました。

 1人の方はタクシーもやっていたようで、タクシー業界裏話もおもしろく、あっという間に時間が経ちました。

 最後の研修の日は、指導の運転手からこう言われました。

 「きょうは、自分は何も言わないから、キチンとやってみて」

 一日、乗務しました。

 基本的には朝の数時間、昼を前後して休憩、午後から夕方までの乗務になります。大型に乗るのはとても楽しい経験でした。

 翌月から乗車ということで、研修を終えました。

 後日、副所長さんからお電話がありました。

 「週1ということでしたが、週2乗ってもらえませんか」

 それくらいやりたいところでしたが、隔週、週2でお受けしました。

エッ、異動?

 ちょうどその頃です。

 本職の異動を命じられました。

 年数からして異動の予感はしていました。万が一動くことになっても、通える場所だったら続けようと思っていました。

 しかし、距離的に難しいかなと判断し、泣く泣く辞めることにしました。

 営業所に電話をかけました。

 最初に親切にしてくださった副所長の方が出ました。事情を説明したところ、

 「ウッ」

と絶句。

 あの「ウッ」は一生涯忘れません。

 本当に申し訳ない気持ちになりました。

 それでも、退職することは認めていただきました。

退職届

 退職届と制服を持って、営業所に行きました。所長が挨拶に出て来られました。

 「丁寧に指導していただいて、社に貢献できないまま辞めるのは、申し訳ない気持ちです」

と申し上げました。

 「来て頂いてありがとうございます。何かのご縁かもしれません。大型が好きっておっしゃってましたので、また戻って来たらお声がけください」

 実に丁寧な対応をしていただきました。

 バス会社に乗務員として採用され、ほとんど乗務できないまま、プロの運転手を経験したという事実だけが残りました。

 複雑な気持ちで、バス会社の営業所をあとにしました。

バス会社の世界

 バスの世界に少しだけ身を置いて、わかったこともありました。

 最初に書いたように、高速バスの運転手に憧れました。観光バスの運転手もやってみたいと思っていました。

 実際に入ってみると、生活のために、そして家族のために、懸命に働いているドライバーさんたちが乗務していました。

 指導の乗務員さんたちのうち、2人から言われました。

 「仕事変わるの。そう。イイねえ。自分なんか、運転するくらいしか能がないからね。他のこと、できないから」

 もちろん頭ではわかっていました。しかし、現実は簡単ではないんだと思いました。

はたして大型2種の重さは?

 大型2種は

 〈免許証の最高峰〉

と呼ばれます。

 そう簡単に取れる免許ではありません。

 運転免許試験場で一発で受けても、なかなかうかりません。5回落ちるなんていうのは普通。おそらく速いほうです。

 今のように、教習所で受ければ合格しやすいとは思いますが、高額な費用がかかります。会社に入ってから、会社の費用で取らせてもらう方もいます。

 運転手さんたちは、それに見合うだけの給与をもらっているのだろうかという違和感も、正直残りました。

 もっともらってもよいのではないか。

 でも、経営の問題もあります。現実は、なかなか難しいのだろうと思います。

トッラック運転手に応募してみた

 実は、トラック運転手の求人に応募したこともあります。

 仕事の1つの区切りを迎え、まったく違う仕事をしてみようかと、求人を探しました。

 トレーラーもやってみたかったので、トレーラーの求人にも応募しました。

 採用担当の方から丁寧な電話をいただいて、未経験者はダメとのことでした。

 1社だけ面接をしてくださった会社がありました。

 いかにもトラック・ドライバー風の方が面接してくださいました。

 「そうですか。バス会社にいたことがある」

 「はい。パートでしたが」

 「バスとは違うからねぇ、トラックは。ところで、給料はどれくらいだったの?」

 「一日乗って、○○○○円くらいだったと思います」

 少し驚いている様子でした。

 それなりの報酬を手にする人は、眠い目をこすりながら、早朝からハンドルを握って頑張るらしい。

 プロの免許を持っていても、それだけではなかなか厳しいという運送業界の事情もわかりました。

 結局、面接までしてくださったこの会社は、臨床心理士として働かないかというお話しもあって、採用・不採用の判断が出る前に辞退しました。

 申し訳なかったと思っています。

バス運転手パーソナリティ

 バス会社に話しを戻します。

 バスの運転手のみなさんには、ドライバーさんの仲間意識、バス乗務員さんの風格、運転手独特の明るさみたいなものを感じました。

 立ち話をしながら、いろいろなことをブツクサ言って、タバコ片手に、笑い飛ばす。

 この明るさはイイなと思いました。

 長いことハンドルを握っていると、自分もあんな感じになるのかな、などと考えました。

 またご縁があったら、バスの運転手。やってみたいなと思っています。

 続く ―次回は最終回、自分にとって免許って何なのだろう……

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