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兄様達へ -短編-

兄様達は息もせず、母の胎から空へ戻られました。
清い魂のまま。

長兄の兄様が生きてらしたら何歳なのか。
次兄の兄様が生きてらしたら何歳なのか。
私は知らされておりません。

お墓にも記されて居ないお二人。
清い魂のままの塊が集まる所が有るとしたら、私の子どもと共に居て下さって居たりするのでしょうか。
もしその場所が有るなら、どれだけ幸いな事か。
これは私の我儘な祈りです。

兄様達はもっと母の胎に居たかった、産声をあげたかったですか。
私は今を生きておりますが、残念ながらお勧め出来ぬ事に御座います。
しかし、女の私と兄様達では性別が違いますから、もしかしたら、私とは全く違った日々の生活と成のかも知れませんね。

性別。
両家共、私が産まれ落ちて女児だと解ると、次は男児だ!と、母に申したそうです。
私の時点で当時の高齢出産でしたのに。
妹の存在は奇跡にも思えます。

兄様達が御生まれに成られてらしたら、私達はもしかしたら存在しないでしょう。
でも、もしも兄様達が同性を慈しむ方だとしたら、兄様達はあの家でどんな扱いを受けねばならぬのかと、想像するだけで身が凍る思いです。
もしかしたら、どんな兄様達でも愛する両親で有るかも知れません。
そうだとしたら、兄様達にも現世を味わって欲しかった、共に生活出来たなら兄様達の名前を呼びたかったな……なんて思います。

兄様達は清い魂のまま。
ですからもう、もしかしたら新しい人として人生を歩まれたりしている可能性も有るのですよね。
現世の先がどうなって居るのかを私は存じ上げません。
当たり前ですが、生きてしまって居る故。

兄様達は今、何方に居らっしゃいますか。
兄様達はお幸せですか。
矢継ぎ早にごめんなさい。

兄様達はそこで誰をお待ちに成って居るのでしょう。
やはり、父や母でしょうか。
言えるのは、私と妹では無いと言う事の理解は持ち合わせて居る事です。

兄様達が共に生きられる人生だったとしたら、私達の家族は何かが変わったでしょうか。
私は愛着障害に成らずに済んだでしょうか。
それとも最悪、兄様達も私と同じ様に愛着障害を抱え生きる兄妹と成ったのでしょうか。
解りませんがそんな辛い想像は嫌、悪夢です。
悪夢は私だけで良いです。

眼を開ける事が恐怖な時。
何かを掴みたくなります。
誰かに大切にされたく成ります。

私がこの手紙をしたためておりますのは、今、兄様達が恋しいのかも知れません。
兄様達なら、私を大切にして下さったかもしれないと、勝手な希望を抱きました。
我儘をお許し下さい。

DNA的に兄様達は母の父、お爺様に似るので、見目麗しく優しい声の背も高過ぎもし無い、親しみある方々へとお育ちに成ったでしょう。
何故自信満々に書くかと申しますと、お爺様の戦争へ向かう前に撮った写真。
ハットをお持ちに成ったスーツ姿、あどけなさを残しつつ、余りに素敵で初めて見た時に目が合い恋に落ちそうだった……そんな写真が残って居るからです。

加えて、母の弟は今、70歳を過ぎロマンスグレーのお洒落な方なのですが、親戚からお爺様に身長も見た目も声からそっくりだと知らされたからです。
その方の性格は、ちょっと私には合わないのですが……お爺様は母が怒られたり、何等かの時には必ず助けてくれた優しい方だったそうです。
ですから、私は兄様達に期待を持っております。
誠に自分勝手な想像です。
お恥ずかしいです。

永遠にお会いしたり出来ぬ兄様達。
兄様達が清らかなままの存在と成れた事、私は羨ましく、何より兄様達は清らかな存在で有り続けられる事を幸いに考えます。
何とも言えぬ現世に御座いますから。

初めて兄様達へ手紙を書きました。
頭に浮かんだ事をそのまま書きました。
兄様達の魂が今も平和な世界で穏やかに居らっしゃる事を祈り願っております。
一時、兄様達とお喋りが出来た様で幸いに御座いました。
有難う御座います。

愛しい兄様達へ
妹より      
令和6年9月16日(月)晴れた夜に

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