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名探偵フックと豪華客船

夏の終わりのある日、名探偵フックのもとに一本の電話がかかってきた。

「港に停泊している客船の一室で、老紳士の死体がみつかった」

名探偵フックは事件の解明のため、助手のグレイブくんと港へ向かった。港に着くと、依頼者のワーネルさんが待っていた。彼はこの船の乗組員であり、今回の事件の第一発見者である。ワーネルさんは、右腕にギブスをしていた。

「ワーネルさん、その右腕の怪我は?」

「昨日、老紳士の死体をみつけた後、慌てて階段を降りたときにコケてしまって、、、」

名探偵フックは眉をひそめたが、とにかく現場に向かうことにした。その道中、甲板の床に大きなシミがあることに気づいた。ワーネルさんによると、家族連れの乗客がなにか液体をこぼしたという。現場につくと、名探偵フックは妙な違和感を覚えた。その部屋の壁紙だけ真っ黒なのである。また部屋は天井が低く、背の高い助手のグレイブくんは少し屈む必要があった。老紳士の遺体の手には、その老紳士と1人の若い女性との写真が握りしめられていた。

「はて、この女性、どこかでみたような」

名探偵フックと助手のグレイブくんは、現場を離れ、船内を探索していた。その時、家族連れの乗客とすれ違った。8歳くらいの男の子が、体と同じくらいの大きさのキャリーケースを運んでいた。父親はグレイブくんと肩がぶつかったが、一言も発さずに立ち去っていった。

その後、ふたりは船長のマックスに話を聞くことになった。マックスは両目を失明しており、サングラスをしている。名探偵フックは、マックスに事件発生当時、何をしていたか尋ねた。

「船内のレストランで夕食をとっていたよ」

名探偵フックは、そのレストランに向かうことにした。料理長のケンと会った。彼によると、事件当日、船長マックスはレストランを利用していないという。料理長ケンの元を立ち去った後で、名探偵フックは助手のグレイブくんに耳打ちした。

「料理長ケンの、上着のポケットに、拳銃の形の膨らみがあったぞ」

再び現場検証をするため、戻っている途中、バスタオルを体に巻き付けて歩く女性が前から歩いてきた。うつむき加減に歩いていたが、老紳士の写真にうつっていた女性であることに名探偵フックはすぐ気づいた。あのー、と話しかけると彼女はバスタオルを脱ぎ捨て全裸で走り去った。助手のグレイブくんは追いかけようとしたが、名探偵フックが彼の手を掴みこう言った。

「この事件、謎が多すぎるぞ」

沈みゆく夕日を甲板から眺めながら、名探偵フックは煙草をくわえ、いつものように独り言をブツブツと言い出した。そのとき、背後に気配を感じた。振り返るとそこには、背の高い青年が立っていた。

「お前が噂の名探偵フックか。俺は老紳士を殺した強盗だ。覚悟っ!!」

そう叫ぶと、ナイフを振りかざした。名探偵フックはなんとか身をかわし、近くにあった鉄パイプで青年の頭を殴った。

青年は病院に運ばれたが、何時間かして死亡した。彼は常習的に強盗をしており、今回の現場で検出されたDNAとも一致した。

名探偵フックは最後に現場の老紳士の遺体に十字架をつくった。「助手のグレイブくん、彼はなんて言っている」と名探偵フックが聞いた。助手のグレイブくんは、遺体を触れると死者と話すことができる能力で、老紳士と会話した。助手のグレイブくんは、遺体から手を離すと微笑んで言った。

「事件が解決して、喜んでますよ」

名探偵フックは高らかに笑った。

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