地獄の2022年――消化器症状との壮絶な闘い

序文:これを書かずに1年を終われない

タイトルのとおりである。
今年2022年、私の体調は控えめに言って地獄だった
2014年、持病の過敏性腸症候群の悪化を理由に2ヶ月間仕事を休んだことがあったが、あの年よりもはるかにつらかったと言っていい。
何せ、最大で7kg体重が落ちた
真剣に、重病が隠れているのではないかと疑ったほどだ。

結論から言うと、いまなお不調と闘っている。
ただ少なくとも、以前とそれほど変わらない日常を送ることができてはいるだけましだ。不安定なだけで、体調がいい日もある。
そのあたりを、今年の頭から振り返っていきたい。

なお、私は医療の専門家でも何でもなく、あくまで自身の体験談や医師の発言、読んだ本などをもとに記事を執筆しております。不正確なことを書くおそれがありますので、解釈は読者の自己判断でお願いいたします。

2月に始まった悪夢

昨年つまり2021年、私は3月以降、実に体調よく過ごすことができた。
理由は以下の記事に詳しい。

こちらの記事、実はかなりの反響をいただいており、DMを多数いただいた。それだけ同様の症状で苦しんでおられる方が大勢いるということだろう。
2021年は諸事情あり、精神的な不調に苦しみ、SSRIを飲んだり、カウンセリングに通ったりした時期もあったが、それでも体調のほうはさほど問題なく過ごすことができた。

ところが、である。

今年の2月ごろから、以前の胆汁性下痢のような症状が復活してきた。朝食後の下痢である。
初めは寒さやコロナのストレス(遠い昔のようだが、まだまん防が発令されていた時期であり、外食もままならなかった)のせいかと思い、さほど気にしていなかった。
ところが、1ヶ月が経ち、2ヶ月が経っても、症状は一向に改善しなかった。文字通り毎朝、お腹を壊す日々が続いた。

上記の記事に書いたコレバインという薬は、胆汁を吸着して排出する薬なので、耐性ができて効かなくなるということはないはずである。事実、記事に登場した名医に相談してコレバインの増量も試してみたが、効果はなかった。となると、ほかに原因があることになる。

5月、私はカンピロバクターに罹患し、療養を余儀なくされた。言うまでもなくその間、お酒は一滴も飲んでいない。一週間ほどが経ち、ようやく症状が治まったとき、私は3ヶ月ぶりに下痢しない1日があったことを喜んだ。ところが、翌朝には元の木阿弥だった。
何とかしなければと本気で悩み始めたのは、このときだったと思う。


各種医療機関の受診

このころは腸内環境の本や腸に関する疾患の本を読み漁り、そこに書かれている方法を試した。
stand.fmでも話したSIBO(小腸内細菌増殖症)が疑わしく、検査を受けるために訪れた病院でSIBO検査と栄養療法のための血液検査を受けた。結果、SIBOは陽性。しかし、低FODMAP食など確実に効果があるはずの療法を続けても症状はまったく改善しない。血液検査では低血糖が指摘され、全体的に栄養が不足していると言われた。サプリメントを摂れば改善するはずだと言われ、そのとおりにしたが、やはり効果はなかった。

総合病院を受診したほうがいいかとも考え、かかりつけ医に紹介してもらって慈恵医大病院にも行った。とても立派な施設で、中を見ることができただけでもいい経験になった。慈恵医大では2014年以来の大腸内視鏡検査を受け、鎮静剤を使ってもらったので前回と比べてまったくつらくなかったが、腸は至って健康そのものと言われた。血液検査で炎症がないことはわかっていたので当然の結果だったが、潰瘍性大腸炎やクローン病の可能性は除外された。結局、過敏性腸症候群以外の診断はつかなかった。

メンタルクリニックではこれまでとは違ったアプローチのカウンセリングを薦められ、これも半年ほど通った。しかしながら、カウンセリングを受けるのはもう4回目で、精神的には決して意味がないわけではないものの、身体症状の改善が見られたことは一度もなかった。基本的に、自分にはカウンセリングは合っていないと思う。

要するに、数多の専門家の力をもってしても、すべてが空振りに終わった。体調は悪くなる一方だった。
このころ、各医療機関で「ストレスが原因」と言われたことを受け、身辺を整理せざるを得なかったことも付記しておく。今年は10周年イヤーで、シリーズ続編を書いていただけだったので、しめきりがややタイトだったことを除けば何のプレッシャーもなく、心から仕事を楽しんでいた。ストレスと言われれば、プライべートのことしか思い当たらなかった。
思い返しても、この時期のことは本当につらい。当事者はもとより、打ち合わせ中に突然(仕事とは無関係に)泣き出したり、いろんな人に時間を割いて話を聞いてもらったりと、さんざん迷惑をかけた。本当にすいませんでした。あなた方のおかげで、いまの自分は生かされてます。

胃の不調と真夏の地獄

最初は寝起きにお腹を壊す程度で済んでいた症状が、しだいに胃の調子まで悪くなっていった。これはもともと消化器が弱っていたことに加え、体調不良によるストレス、心気性の不調が重なっていたのだと思う。
毎年訪れるほど南の島が好きだった私にとって、コロナの影響で3年ぶりとなった6月の宮古島旅行も、行きの飛行機では体調不良で地獄を見た。不思議なもので、現地にいるうちにみるみる元気になったのだが、それも東京に戻った数日後には元どおりになっていた。
7月の半ばに新型コロナに感染したのを機に、私は断酒を決意した。お盆の帰省を終えて東京に戻るまでのおよそ1ヶ月間で、飲酒は記憶する限り、宿泊絡みでどうしても飲みたかったわずか2回にとどめたはずだ。
けれどもお酒をやめたところで、やはり体調は少しも回復しなかった。

そして8月、作家生活10周年記念作品『珈琲店タレーランの事件簿8 願いを叶えるマキアート』が発売になり、これまでの作家人生で経験したことがないレベルの稼働が続いた。
特に2日間の書店訪問で東京・神奈川・京都・大阪・神戸を訪れた際はピークで体調が悪く、大阪で私は一度、倒れかかっている。昼食が遅れたことによる低血糖が理由だったようで、昼食後は回復したものの、自分が空腹であることにも気づけないくらい胃の調子が悪化していた。
そのほかにも、初のオンラインサイン会という試みをおこなった。いまだから言えるが、実はあのとき突然の体調不良でしばらく動くことができず、会場入りを1時間半も遅らせ、大迷惑をおかけしてしまった。どの記事だったか忘れたが、取材のときも体調不良で、げっそりした写真が掲載された。

5月の時点で65kgあった体重は、8月には58kgまで落ちていた。
毎朝、感染性胃腸炎並みの水下痢をしていたのだから痩せるに決まっている。
このまま死ぬのかな、とわりと本気で思っていた。

試行錯誤の末に見出した光明

このころ、症状を観察するために薬を増やしたり減らしたり、いろいろなことを試していた。
そうするうちに、以前は皆無だった「昼食後に突然体調が劇的に悪化する」という症状が出た日(オンラインサイン会の日もこれに該当する)に、共通点があったことに気づく。

PPI(プロトンポンプ阻害薬)のスキップである。

私は以前から逆流性食道炎を患っているので、胃酸を抑えるために、もう長いことタケキャブを服用していた。
普段は10mgで、食道の痛みなど自覚症状が強いときには20mgに増量してもらったこともある。
そしてタケキャブというのは通常、1日1回飲めばいい薬だ。それで私は、長年朝に服用していたタケキャブを、何度かスキップしたり、夜の服用に替えたりしてみたことがあった。これにはSIBOの反応を見たかった、という目的も含まれる(胃酸が小腸内の細菌を減らすので、胃酸を抑えるとSIBOが悪化する、という理屈)。

その、朝にタケキャブを飲まなかった日の昼食後、私は必ず激しい下痢に襲われていたのだ

これに目をつけるのはなかなか難しかった。なぜなら、タケキャブは胃の薬であって腸の薬ではない。しかも、タケキャブは胃酸を抑えることによって消化不良の下痢を引き起こすと言われることが多く、反対にタケキャブが下痢止めになるというような話は聞いたことがなかった。
だが、これまでにない激しい症状と明らかにリンクしている以上、タケキャブが関係しているというのは無視するには惜しい仮説だった。しかも、私は食道が痛むことや胸やけはあっても胃が痛むことはこれまであまりなかった人間であるにもかかわらず、7月ごろからは明確に胃痛が出ている。

私はようやく気づいた。
これまで、ずっと勘違いをしていた。
私の悪いのは腸ではなく、胃だった。
これは胃酸過多が原因だったのだ、と。

私はかかりつけ医に、タケキャブの10mgを朝晩に飲んでみたい、と相談した。
医師はいい顔をしなかった。そういう薬ではないから、と。でも、1日20mgまでとされている薬ではあったので、試してみるだけならということで、処方してくれた。

そして、タケキャブの朝晩の服用を始めて、わずか数日後。

半年にわたって続いた毎朝の下痢が、ぴたりと止まったのである。


その後の回復

私の仮説は、正しかったことが証明された。
不調の原因は、胃酸だった。
どうやら胆汁や胃酸といった消化液の刺激に対する反応が、過剰なようなのである(これは十二指腸のはたらきらしい)。

その後も一週間ほどは、かなりつらい胃の症状に悩まされた。
胃酸を抑える薬を増量したのに、なぜか胸やけが一時的に悪化して、ガムを噛むなどして必死に耐えていた。
だがそれも徐々に落ち着き、胃の痛みは現在に至るまで再発していない。たまに胸やけがきつい日もあるが、慢性的ではない。

およそ1年ぶりの胃カメラも受けた。
初めての経鼻内視鏡で、ポリープはあるものの良性、食道裂孔ヘルニアはあるが食道炎はそこまでひどくない、胃内壁の襞が発達しており表面積が広いことが胃酸過多の原因ではないか、との見解だった。
体重減少から懸念されるような重病は、見つからなかった。

ようやく、日常が戻ってきた。
ただ、普通に生活できる。その喜びを、私はしみじみと噛みしめていた。

そして、深く反省もした。
フリーランスの夜型生活、運動不足、食生活のムラなど、これまではあまり省みていなかった。寝つきが悪いのだから夜型になるのは仕方ない、忙しいから運動もできない、時間が惜しいから料理はしない、など。

だけどもう、あの地獄には戻りたくない。
3ヶ月で7kgも痩せたのだ。尋常ではないのは誰でもわかる。

私は生活習慣の改善に、本気で取り組むことを決意した。

このころ自律神経の本に書いてあった一言が、何よりも私の心に刺さった。

男性は30代から、女性は40代から自律神経(特に、副交感神経)のはたらきが衰え始めます。

なんだ、と思った。
じゃあ、体調悪くなるのはしょうがないじゃん。
36歳になった自分が、ただでさえ自律神経のはたらきが弱い自分が、これまでと同じ生活しててもだめになるのは、当たり前なんじゃん。
ちゃんと自律神経をいたわって生活するようにしなきゃいけないんじゃん、と。
これまでの生活を続けることを、私はあきらめたのだ。

朝起きて、まずバルコニーで日差しを浴びるようにした。
一緒にストレッチもやるようにした。
医師から「岡崎さんの場合、低血糖の原因は考えすぎ。スポーツなど、何も考えない時間を作るべき」と言われ、テニスを始めた。
低血糖を避けるためにまめに食事を摂り、消化酵素やアミノ酸などサプリメントの摂取も心がけた。
鍼灸院に通い、体を冷やさないことや目を温めることなどさまざまなアドバイスをもらった。

9月ごろには、目に見えて体に変化があった。
何よりも、寝つきがよくなった。薬か酒がないと眠れなかった自分が、ホットアイマスクをするだけで眠れるようになった。
薬の服用は続けており、症状はある程度コントロールできていた。このままいけば、やがて薬に頼らなくても元気になれるだろう、と実感していた。

しかし、そんな状態も長くは続かない。

そして、現在

夏の不調で予定を絞っていたあおりで、9月10月はかなり忙しくなってしまった。執筆をする時間の確保すらままならなかったほどである。
そうこうしているうちに、寒い季節がやってきてしまった。気圧や気候の変化は露骨に体にこたえ、だんだんと朝の不調が戻ってきた。

最悪だったのは11月、地元での講演と取材旅行だ。前日入りのために羽田へ向かおうとしていた矢先、水下痢が止まらなくなってしまった。急性腸炎である。強めの止瀉薬を飲んでも症状を抑えられず、一度家を出たものの、いったん引き返したほどである。
思い返せば、緊張するイベントの前日や当日に腸炎になることが多かった。今年だけでも伊豆大島旅行の前日、ライブの当日、そして講演の前日である。明らかに、緊張が胃腸に悪影響を及ぼしている。
ほうほうの体で地元に帰り、何とか講演を無事に済ませた。取材旅行初日の朝までは腸炎を引きずっていたが、その日の夜にはかなり回復しており、2日目の夜には美酒美食を堪能する余裕さえあった。自分でも、わかってはいたのだ。緊張するイベントさえ終えてしまえばおのずと回復するのだ、と。

しかしその後もワールドカップを筆頭に、生活リズムを崩さざるを得ない日が多く、寝つきの悪さが完全に戻ってきてしまった。そうなると朝の不調も続く。何なら、適量のお酒を飲んで寝た日のほうがよほど翌日の調子がいいくらいだ。できる範囲で家でゆっくり過ごす夜を作っているが、そういう日の翌朝に回復するということは、経験上なかったし現在もまったくない。一方で、ある条件を満たすと翌朝の下痢がなくなるという、不思議な体験もしている(残念ながら、毎日満たせるような条件ではない)。

ある医師からは「症状がない日はスキップするなどして薬を減らしたほうがいい」と言われたが、実際にスキップすると腸だけでなく胃の症状も戻るので、薬はやめられない。
ほかの医師からは「いいとは言えないが、結局症状を見てバランスを取るしかない」と言われた。
かかりつけ医には「とりあえず薬を飲んで症状を抑えるのは大事だからそんなに気にしなくていい」と言われた。

私は今朝もお腹を壊した。
ちなみにこの2日間、お酒は一滴も飲んでない。
しかし、朝の不調に効果的なサプリメントや薬も新たに見つかった。
こちらも手を拱いているばかりではなく、体重は61kgまで回復し、現在も微増傾向にある。

終わりに:誰も助けてはくれない

最後になるが、今回痛切に思い知らされたことがある。
私は2月からの半年で数多の医療機関を受診し、そのほかにもさまざまな施設で治療・施術を受けてきた。
しかし、だ。

胃酸が不調の直接の原因であることを指摘した人は、ひとりもいなかった

結局、誰も助けてはくれないのだ。

私は自力でそれを突き止めた。
しかしそれも、ずいぶん遠回りしたあげく、半年かかってようやくのことだった。気づいたのは、いろいろ試した結果でもあるし、単に運がよかったとも言える。

自分の体のことは、つまるところ自分にしかわからない。
自分が勉強しようと思える人間でよかったと思う。いろいろ調べて、いろいろ試してみなければ、いまの日常は取り戻せなかった。
8月レベルの不調がいまなお続いていたらと想像すると、心底ぞっとする。
大好きなお酒もやめざるを得ず、人と会って話す気にもなれず、生きる希望を失ってしまっていただろう。

究極、自分を助けられるのは自分しかいない。とはいえ私たちの多くは、専門家でも何でもない。
だから、私たちはみずからを律し、正しいがゆえに当たり前に正しいとされている生活を送る必要があるのだ。

いま、ここにある日常。誰もが享受している日常。
それらはすべて、健康の上に成り立っている。
病気は、かけるゼロだ。ほかにどれだけいいことがあっても、すべてを無に帰すだけのとてつもない破壊力を持っている。

だから私はもう自分を無駄に追い込まないし、できる限り甘やかすし、他人に嫉妬しないし、日々を楽しくかつ穏やかに過ごす努力を惜しまない。分不相応な願望は抱かないし、恵まれていることにはちゃんと感謝して生きる。すべては健康のため、自分の日常を守るため。

もう二度と、あんな地獄を味わわないで済むように。


付記:記事にあるとおり、私は現在も一時期よりは持ち直したという程度で、相変わらず不調と闘っています。
もし、「治せる」という方いらっしゃったら、ぜひご一報ください。
こちらとしては、「治せるもんなら治してみやがれ」という心境ですので、きちんと効果が証明されている方法であればどんなことでも試してみたいです。
よろしくお願いいたします。

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