胆汁性下痢だと判明して衝撃を受けた話

タイトルからもわかるとおり、汚い話題になることをお許しいただきたい。なお前半は僕の病歴の話になるので、胆汁性下痢について気になる方は後半の見出しまですっ飛ばしていただくことをおすすめします。

およそ10年前に始まった過敏性腸症候群との闘い

僕はもうかれこれ10年間、過敏性腸症候群(IBS)に悩まされてきた。

きっかけは大学を卒業して地元に帰り、友人と会う機会が減ったことだ。久々に先輩に誘われて飲みにいった日、お店に着く前に何度もトイレにいきたくなった。そのときはまだ、IBSという自覚はなかった。病名さえ知らなかったかもしれない。

しかし、その後も友人と会う前にトイレに行きたくなることが続いた。緊張するとお腹を壊すというのは、たとえばちびまる子ちゃんの山根くんの例でも見られるように(彼は単に胃腸が弱いだけだったかもしれないが)一般常識の範疇だったので、単に体質の問題だと思っていた。

(余談だが、このころは会食恐怖症も併発していた。外食中、急に具合が悪くなるのだ。こちらはIBSの治療にともない軽快したが、近年ステイホームの影響で再発しかかったこともある)

当時、プロの作家を目指していた僕は、横溝正史ミステリ大賞に応募して初めて最終選考に残った。電話で連絡を受けた日の夜、自分の名前が記された本が書店に並ぶところを想像したら、ものすごく心臓がドキドキした。翌朝、僕はお腹を壊した。

やがてデビューが決まり、初めて単身上京して宝島社に挨拶に行った日の朝も、ものすごくお腹が痛かった。いざ挨拶が済み、夜に友達と合流して酒を飲む頃にはすっかり治っていた。緊張するとお腹を壊す体質であることは、もはや疑いようがなかった。

2012年はデビューに向けた改稿とプライベートのストレスが重なって、月1ペースで腸炎になっていた。デビュー作の初版印税の額を知ったのも病院で点滴を受けるベッドの上だった。体調が悪化しすぎた結果、お付き合いしていた女性と別れるという苦い経験もした。人生観が(よくない方向に)大きく変わる出来事だった。

そうしてプロの作家になった僕だが、相変わらずお腹の調子が悪いので、内科へ行った。そこで過敏性腸症候群という診断が出て、イリボーという薬が処方された。

この薬の効果は劇的だった。これまで、お酒を飲んだ翌朝にお腹を壊すのは当たり前だと思っていた。ところが、イリボーを飲んでいるとお腹を壊さずに済む日も少なくない。まして普段はお腹を壊しにくくなり、ウイルス性以外の腸炎にもならなくなった。

神の薬だ。心からそう思った。

しかし、それは文字通り小康状態に過ぎなかった。薬に耐性ができたのか、あるいは効いた上でなのか、ほどなく僕はまた体調を崩すようになった。デビュー作がヒットし、連載などの仕事が立て続けに舞い込み、いきなりプロの作家として振る舞うことを求められるようになったプレッシャーが大きな原因だったと思う。トリメブチンやコロネルといった薬を追加するも、不安定な時期は続いた。

2014年の夏には寝込むレベルの腸炎になり、その後も回復が思わしくなく、2ヶ月の休業を余儀なくされた。大腸内視鏡検査も受けたが異常はなく、典型的なIBSと思われた。湯治に努めたり、カウンセリングを受けたり、ジム通いを始めたりとさまざまな手を講じたが、最終的には漢方医院への通院が功を奏し、体調はゆるやかに回復した。翌年の春、僕は地元を出て東京に移り住んだ。

以来、よくなったり悪くなったりを繰り返しながらも、近年はわりあい落ち着いた状態が続いていた。対処がうまくなったのもある。寝冷えが大敵とわかってからは体をしっかり温めるようになり、夏でも冷たいものばかり飲まないよう気をつけた。秋にはなぜか無敵の期間が到来し、酒を飲もうが何をしようがまったくお腹を壊さない体になることすらあった。そのころには僕も東京での暮らしになれ、友人も増え、公私ともに充実した日々を過ごしていた。

ところが、である。

2020年の緊急事態宣言により、人々の生活は一変した。独身でフリーランスで在宅ワーカーの僕にとって日々の何よりの楽しみだった、友人との飲み会は催せなくなった。

その年の梅雨に入ったころから、また体調が悪くなりだした。人と会えないことにかなりのストレスを感じていたので、そのせいだろうと考えていた。また漢方医院を探して通うなどし、それが効いたとは思えなかったが、秋が来ると回復してまた無敵期間に突入したのでほっとしていた。

そして、2021年1月。

緊急事態宣言が再発令された数日後より、僕はまたしても体調を崩すことになる。

とにかく朝、お腹を壊してしまう。痛みはなく、たいてい夕方には治るのだが、次の朝には元の木阿弥である。イリボーを1日2錠に増やし、ブスコパンを飲み、ソラナックスを飲み、まめに運動を心掛け、漢方医院への通院を再開してもまるで効果がない。丸2ヶ月のうち、朝お腹を壊さなかったのはたったの3日というひどい状態が続いた。

これはもう緊急事態宣言が明けるのを待つしかない。僕はそう思っていた。というより信じたかった。そうして気晴らしができるようになれば、きっと体調も元に戻るはずだ、と。

でも、本当にそうなんだろうか。

このまま、もう一生治らないんじゃないだろうか。

そもそも、IBSは完治するような病気ではない。最大限出してもらっている薬が効かないのであれば、それはもはや打つ手なしということではないか。僕はもう、ここから回復できないかもしれない。

朝の不調だけで済んでいたので、決して深刻な状況ではなかった。だが、不調が長引けば長引くほど、僕は不安を募らせていった。

名医から下された衝撃の診断

思い余った僕はわらにもすがる思いで、都内で過敏性腸症候群の名医と呼ばれている医師を探してみることにした。検索すると何人かがヒットし、その中に自宅最寄り駅の沿線の医院を見つけた。電話をしたところ、予約はいらないという。さっそく行ってみることにした。

ネットで見た写真のとおりの先生は、想像したよりもフランクで、「朝だけなら深く気にしなくていいんじゃないの」というようなことを言ってくれた。そして、次のように続けた。

「胆汁が悪さをしてる場合もあるから、とりあえずその薬飲んでみる? 違ったら、また別の治療を試せばいいし」

IBSだと、自律神経やストレスが原因だと思い込んでいたので、ほかの可能性は疑わなかった。僕は飲んでみますと答え、これまでの薬に加えてコレバインという薬が新たに処方された。コロステロールを抑える薬だが、胆汁に対する効能もあるという。

薬をもらって帰宅した僕は、胆汁と下痢の関係性についてネットで調べた。すぐにいくつかのページがヒットした。中でもNHKガッテン!のサイトに、胆汁性下痢の特徴として次のようなことが記されていた。なお、以下は転載である。

■その日の最初の食事の後、1~2時間後に下痢が起こる。
■腹部に強い痛みはない
■便を出してしまった後は 症状が回復する

…………は?????

いや、どう考えてもこれなんですが???????????????

寝起きでは下さず、朝食後に下す。痛みはない。夕方には治っている。完全に当てはまってるんですけど!!!!!

当日の夜から、僕はさっそくコレバインの服用を始めた。翌朝、お腹を壊さなかった。その日は少しお酒を飲んだのでどうかと思ったが、次の日も大丈夫だった。3日連続で朝にお腹を壊さなかったとき、僕は確信した。

これやん!!!!!

原因、完全に胆汁ですやん!!!!!

丸2ヶ月も苦しんでたのに、薬飲んだら即解決したやん!!!!!!!!

何よりも衝撃だったのは、10年間過敏性腸症候群を患い、8年くらいは通院していて、過去10人を超える医師に診察してもらったにもかかわらず、これまで胆汁性下痢の可能性を指摘した人が誰一人としていなかったことである。

名医すげえ。みんなも名医に診てもらったほうがいいよ、マジで。

もっとも、だからといって僕が過敏性腸症候群ではなかったというわけではない。緊張するとトイレに行きたくなったりお腹を壊したりする、それは身に覚えがあることだし、何なら現在でも続いている。僕の場合は、過敏性腸症候群でもあり胆汁性下痢でもあるということに過ぎない。

ただし、下痢型過敏性腸症候群の患者のうちおよそ30%は胆汁性下痢である、というデータもあるという。

言えや!!!!!!

何で誰も教えてくれんかったんや!!!!!!!!!!

さらに、胆汁はコレステロールに作用するため、胆汁性下痢患者は脂質異常症を併発することもあるという。コレバインは本来、コレステロール値を抑えるための薬なのだ。そして僕は5年ほど前から、LDLコレステロール値が高い脂質異常症を患っていた。

言えや!!!!!!

これだけデータそろってたら、専門家ならわかるやろ!!!!!!

どんな謎解きゲームよりも簡単だわ!!!!!!!!!

……まあ、運動するとコレステロール値は改善するので、僕もそれで抑えられていた面がある。そもそも過敏性腸症候群であることに変わりはないので、胆汁性下痢が隠れてしまっていたのは仕方がない。

だけど、だけどさ……。

誰かひとりくらい、気づいてくれたってよくない……?

だって、ガッテンでも取り上げてた病気なんだよ……?

いつから胆汁性下痢が始まったのかはわからない。初めのうちは脂質異常症もなかったので、過敏性腸症候群のみ発症していた可能性もある。ただし、少なくとも2014年に仕事を休まざるを得なくなった時期の体調不良は、ここ2ヶ月の症状と酷似していた。したがって、この時期にはすでに胆汁性下痢を発症していたのではないかと僕は見ている。

繰り返しになるが、IBSは完治するような病気ではない。僕はこの2ヶ月の体調不良に特効薬などはなく、今後もだましだまし付き合っていくことになると覚悟していた。

特効薬は存在した。コレバインだ。

まさか薬を飲むだけであっさり症状がなくなるなんて、いまでも信じられない。

なお、コレバインは副作用の少ない薬らしいが、個人的には弊害もある。毎朝、下すことで出しきっていたものが出なくなったため、日中にトイレにいく頻度は増えた。毎朝の下痢ほどではないが、これはこれでつらい。薬の量や飲むタイミングを調整するなどすればある程度改善するのではないかと考えているので、次回名医に診てもらう際に相談してみようと思う。

それにしても、IBSだと信じ切っていた病気に、ほかの原因が隠されていたなんて。その原因に、特効薬が存在したなんて。

IBSを自覚してからのここ10年ほどで、一番の衝撃だった。

この病気は治らないもの、と決めてかかるのはよくない。名医に会いに行き、セカンドオピニオンを聞くのは大事。そのことを、身をもって思い知らされた。

というわけで、毎朝の下痢で悩んでいる方、胆汁が原因である可能性を一度疑ってみてはいかがでしょうか。そのほかの方も、長年悩まされている症状があれば、名医に会いに行ってみるのはひとつの手です。

今後も健康には気をつけつつ、公私ともに楽しんでいきたいと思っています。皆様も健やかな毎日を過ごされますよう、お祈り申し上げます。


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