温州みかんの加工品?


・・・グツグツ、ブツブツ、ウトウト・・・
 ナンシー「あ〜、もう少しなんだけどな」
 地の国において発明家と呼ばれる者は幾人かいるが、ナンシー・ノームライトほど、変わり者という言葉が似合う発明家はいないだろう。その実、発明品とされる物の出来は唯一無二であり、宝石亀オーシャン・クリプト・カールソンからの信頼は厚い。しかし、彼女の得意な発明とは主に機械的なものが多く、今回の依頼は興味大半、意地極少といった範疇を出ない内容であった。

 ナンシー「タルトくん、また変わった依頼を持ってきたと思ったけど、正直に言うとこのままの方がいいんだよね。なんで手間隙かけていじくる必要があるんだろ。」
 
 タルトの依頼とは、エヒメのみかんの加工品開発であった。それも普通の加工品ではなく、ナンシーだからこそできる加工品に仕上げて欲しいという。

 ナンシー「手っ取り早いのはジュースよね。瓶詰めしておけば果実よりも長持ちさせられるし、あとはゼリーとかソースにアレンジしてケーキとかいろいろ。でも、そっちはカケルの方が得意かな。」

 発明家というのは難儀な商売である。世の中に既にあるものは発明とされず、さらに使った者の満足度を上げ続ける必要がある。利便性という言葉に置き換えてみれば、あまり度の過ぎた発明品は人々を堕落させかねない。適度な改良の余地を残しておくことも、場合によっては必要な時もある。初めから完璧さを求めていては時間ばかりかかり、出来上がった時にはニーズからズレてしまうこともある。人で言えば適材適所。その時代に合ったものを発明しなくては、発明家の名は時代の流れに乗れずに埋もれてしまうだろう。

 ナンシー「今回の依頼はあたしだからこそ、そういうものはやっぱりこれかな。あとは微調整。」
 機械仕掛けの発明が得意な彼女の手によって、エヒメみかんの加工がどうなされるのか。ドアの隙間からじっと見つめる瞳が映すナンシーの後ろ姿。季節は肌寒い日を挟み、少しずつ暖かい日が多くなってきていた。

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