万象森羅シェアワールド〜狸人族タルト編〜第一章:養子、鬼っ子姉妹

第一章:養子 五節:鬼っ子姉妹
 コンコン
 タルトと商人は職業適性判断所を後にし、曼珠商会本部の一室のドアの前に来ていた。
「お嬢様、予定通りと言いますか、思惑通りと言いますか、タルトが商人職に着きましたので、改めてご紹介します。」
 商人はそう言うと、食事処で会った姉妹にタルトの職業適性について話し始めた。
「...というわけでして、商会ではまだ誰も所持していない「創造具現」の資格を得ることができ、ここまでトントン拍子で進んでしまいました。私の役目はここまでになりますので、今後はお嬢様方にタルトをお任せします。それでは。」

 商人が出ていった一室。残るタルトと令嬢姉妹。穏やかでありつつも、何かが香るこの部屋で、タルトはこれから何をすれば良いか二人に問いかけようとしていた。
「お嬢様、僕はこれから商人として生きていく決意ですが、その前にひとつ聞いて頂きたいことがありまして。」
 タルトの顔が普段のそれとは違い、真面目に前を向き、生命力溢れる目が姉妹の心を動かそうとしていた。

 ペシッ!
 姉妹のうち4本角の妹、シジカがタルトの頭を軽く叩いた。
「えーい、暑苦しい奴じゃ!昨日の今日でもなく、つい今しがたのことで、そう急ぐこともなかろうに!」
 タルトはいきなりのことで目を丸くし、先ほどまでの鬼気迫るような表情はなくなっていた。
「そうですわね。私共としましても、今すぐタルトに何かを望んでいるわけではありませんので、しばらくはうちの商人たちの動きを観察しながら、その中でタルト自身がやりたい事を見つけてくださいな。独自の資格持ちですから、必要なことが起こればこちらから指示を出しますわ。」
 もう一人の二本角の令嬢姉、アザミの言葉を受けたタルトは、冷静さを取り戻し、急ぎすぎた自分の非礼を詫び退室しようとドアに向かおうとした。

「お待ち!おぬし自分のことばかりで、我らのことを何も知らぬではないか。それで良いのか。」
 タルトはハッとして再度振り返り、二人に向き合った。
「意外とそそっかしいのかしら?でもまだ若いのですから、頭よりも先に動いてしまうこともありましょう。よろしい。私がその性格を管理して差し上げます。」
 性格を管理?タルトな聞き慣れない言葉にキョトンとしながらも、二人の話を聞き続けた。
「我ら二人はこの曼珠商会の会長の娘。現場の采配を任されておるのじゃが・・・ときにタルト、お主はどちらが好みじゃ。」
「あら、そんなこと決まってますわ。私が管理すると申し上げた以上、私が好きになるに決まってます。」
 タルトは頭がまた混乱してきた。二人が双子であろうことは何となく分かる。そして二人の会話から間違いなく二本角の可愛い方が姉で、四本角の綺麗な方が妹だと分かったが、それ以上でもそれ以下でもない会話が続いていた。

「お、お嬢様方、分かりました。僕はお二人とも好きです。えー、大好きです。この身に替えてもお二人のことは幸せにして差し上げますので、今日のところは何卒。」
 そう言い終わる直後にシジカの体当たりを受け、タルトはドアの外まで飛び出てしまっていた。部屋の中からは二人の騒ぐ声が続いており、タルトは耳を垂らし、溜息をつきながら部屋を後にした。

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