タルトの愛媛探検記 : 万象森羅みかん誕生秘話


 タルト「アキさん、こんにちは〜」
 タルトは農家をアキと呼び、アザミとシジカを紹介した。
 アキ「おー、タルト。この子たちが話に聞いていた君の上司なんや。鬼と聞いてたからどんな子らと思ってたけど、可愛い子たちやん。で、どっちが彼女?」
 タルト「い、いや、そんなじゃないですよ...ただの上司です!」
 タルトはアキの弄りに気づかず、真面目に返事をしてしまった。アザミとシジカの視線が強烈に背中に刺さって、またいつぞやの記憶が頭をよぎる。
 アキ「ほうなんや!てっきり今日は紹介してくれるんかと思ったんやけど、まあそういうことにしとこーわい。」
 アキはタルトの焦る顔をニヤニヤしながら見つめ、三人を倉庫へと案内した。

 アキ「で、この前持って帰ったのはどうやった?今年の宮川早生は不作気味で心配してたんやけど。」
 タルト「あー、お嬢様方にはすこぶる好評でして、今後はもっと扱いたいから現地を見てもらおうと思って。」
 アキ「そりゃあ良かった。来年はちょっとやり方を工夫するつもりなんやけど、その前に今を知ってもらうんもええかもしれんね。」
 タルト「じゃあ今日は畑を見せてもらってもいいです?」
 アキ「あ、もう宮川早生は終わる直前だけど、せっかくだし見てもらおっか!」
 四人はアキの車に乗り、みかん山へと向かった。

 シジカ「なんですの!これは正しくパラダイス!」
 アザミ「全くですわ。みかん食べ放題というのはこういう景色でこそ実感できますわ。」
 タルト「ちょ、お嬢様方、食べないでくださいね!」
 アキ「(笑)いいよタルト。少々食べても減った気にならないし(笑)」

 みかんを食べながら異世界からの訪問者を黙って見つめるアキ。しばらくみかん談議と、今後の予定について話しているうちにひとつの結論が出た。
 アザミ「先程、やり方を変えるとおっしゃいましたが、このままのみかんではダメなのですか?」
 シジカ「そうじゃ、そうじゃ。このままの味の方が商会としても安心する。」
 アキ「はは(笑)変えると言っても、悪い方向にはしないから大丈夫。今まではこだわりを捨ててみかんを作ってきたんやけど、これまでは敵地適作と言って、その土地・畑に合うと思う品種を選んで植え替えを進めてきたんよ。日当たり、水はけ、気温、土質、自分なりにいろんな条件を畑に設定して、条件に合いそうな品種を主観的に植えてきたんよ。最初に植えたみかんも10年を越えて、そろそろ次の段階に行こうかなって考えてたんよね。」
 タルト「なるほど、以前みかんの味は10年くらいかかるって言ってましたもんね。」
 アキ「そうそう。でもその常識がどうも違うって知って、美味しいみかんの作り方にこだわってみたくなってね。畑の環境に左右されない美味しさ。その実現のために来シーズンは頑張ろうかなって。」
 アザミ「今でも充分だとは思いますが、さらに上を目指すと?」
 アキ「そう!たまたまここの宮川早生は40年くらい前からあってこの味だけど、別の畑の宮川早生はここまでの味にはならなくて、試験的に3年前からあれこれ試してきて、こだわりが味に影響するって実証できたんだ。」
 シジカ「姉上、この味がどこでも作れるかもしれぬとなれば!」
 アザミ「ええ、私も同じことを感じていました。ここに決めましょう。万象森羅世界の食の一翼。万象森羅みかんの誕生ですわ。」


 万象森羅みかん。ここでしか味わえない、それでいて希望に溢れる想いと、作り手と食べ手の共感が育んでいくみかん。その間を「つなぐ」万象森羅の民。始まりはいつも人の和から生まれる。

後記
   万象森羅みかんの誕生は本当に突然でした。当初はみかん農家とクリエイターさんたちで、うちのみかんPRについてワイワイやってましたが、どうしても万象森羅シェアワールドと結びつけたくなって、気がつけばタルトが誕生。そのままの流れで万象森羅みかんという名前が付き、現在は愛媛の一部の直売所で販売されています。
   宮川早生温州みかんから始まり、今後も岡﨑農園のいろんな品種が、いろんなキャラクターの応援を受けて販売されます。
   序章となるこの物語も、次の南柑20号からまた別のお話へ。みかん作りと物書きと両方は大変ですが、さらに次の企画も検討していますので、全国各地のみかんファンに向けて頑張ります。

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