万象森羅シェアワールド〜狸人族タルト編〜第一章:養子、職業

第一章:養子 四節:職業
「ここが職業適性判断所か。あ、これでいろいろ調べるんだね。」
 タルトは冷静な気持ちで呟いた。ここで自分の運命が決まる。そう思うと、期待と不安とが交錯し、渡された適性診断用紙に目を通し始めた。
「ここも俺の所属商会が取りまとめてるんだ。人材を確保するっていうのもあるが、国を支える民にとっては、結構便利なところだと思うぞ。」

 商人の所属する商会は、いわゆる何でも屋と言っても差し支えない。主に総督府からの依頼をこなすことが多く、国家運営の一部を任されることもある。他にも首都に暮らす人々から依頼を受け付けており、国のため、国民のためになる事であれば、断ることなく事業を起こしていた。

「えーっと、喜怒哀楽を間違うことなく選ぶ、か。お金儲けについて思うことは、これかな。」
 タルトは100を越える項目にひとつひとつ答え、記入し終わった用紙を職員へと返した。
「どんな適性になるのかな。楽しみだけど、全然知らない職業にならないかちょっと心配だよ。」
「大丈夫。なんせ俺が連れてきたんだ。心配しなくても、タルトが納得できる結果が出るよ。」
 タルトと商人は今回の旅での出来事や、今この国が置かれている状況について、会話をしながら結果が分かるまでの時を過した。

 職業適性判断所の最奥の部屋が、妙に騒がしくなっていた。タルトと商人は会話に夢中になり気付いていない。しばらくして、恰幅の良い職員が診断書と結果表を持って2人のところへやってきた。

「君がタルトくんだね。」
 職員はそう尋ねると、タルトに結果表を手渡した。
「結果表を見てくれ。我々にも信じられないが、君には多種多様な適性が現れているようだ。ここは適性を示し、得ることのできる資格を教える場なんだが、どうも今回はそれができないらしい。」
 タルトは職員の話を聞きながら、結果表に書かれている内容を見てやや混乱していた。
「つまり、一言で言うと君はなんでもできるという事だ。ここで得られる資格全て、その素質が君にはあるということだ。」
 そこまで聞くと、タルトはさらに困惑した面持ちで商人の方を向いた。
「おじさん、どうしよう。選べないよ。」
 不安な心を隠せないタルトに、職員がまた話しかける。
「知っていると思うが、得られる資格はひとつだけだ。だから後悔しないように、慎重に選んでくれ。なあに、考えようによっては何を選んでも構わないってことだから、簡単だろ。」
 タルトは内心で「むせきにーん」と叫びながら、商人と隅にあるテーブルに移った。

「ははは、ここまでとは俺も予想できなかったぞ。」
 商人は確信を得たといった表情を浮かべながら、タルトの決断を待っていた。すでに結果を知っているかのように。
「おじさん、こうなるって思ってたなら、わざわざここに連れてくる必要なかったんじゃないの。」
 タルトは少し拗ねくれた表情に変わり、天井を見上げ唇を噛んだ。
「おじさんの考えがだいたい分かった気がするよ。せっかくここまで連れてきてくれたんだもん。僕は「創造具現」の資格を取って、おじさんと同じく商人職になるよ。」
 商人の右拳が後ろに回り、グッと握りしめられたことをタルトは知る由もなかった。

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