南柑20号

   タルト「....zzz」
 今日、緑の国の季節は冬。しかし今年は何故か暖かい日も時折訪れ、昼食を取ったタルトは枯葉色の草原に横たわり、いつしか眠ってしまっていた。軽い運動をすれば汗ばむ陽気。静かな時の流れと小鳥のさえずりだけが、タルトを優しく包んでいた。

 タルト「あ...また寝ちゃってた。そろそろ船が到着してる頃かな。アキさんのところに行かないと...」
 曼珠商会の運搬船は三国間を周回している関係で、一度寄港すると物資の積み下ろしで数日は忙しくなる。各国の特産品の交換が行われているこの間に、タルトはエヒメのみかんを卸している。先日までは宮川早生温州みかんを、今回からは南柑20号である。

 タルト「アキさん、明日来いって言ってたけど、たまにはお手伝いしに行こうかな!」
 そう言うとタルトはサッと起きあがり、エヒメに向けて荷車を押し出し、ダッシュで結界をくぐって行った。

 タルト「うわ、この前まではたくさんみかんがなっていたのに、もうだいぶ無くなってきちゃったなぁ。大丈夫かな。」
 アキ「あ、タルトみーっけ!」
 タルト「み、見つかっちゃいました?(笑)」
 アキとタルトの関係は、傍から見れば友達関係と見られるくらい近い。別の見方をすれば親子っぽいとも見れなくはないが、容姿の違いとアキの距離感がそこまでは望んでいないようであった。
 アキ「予定だと明日のはずだったけど、準備はできとるよ。今年の20号はちょっと硬めでどうなるかと思ったけど、まあなんとかなりそうや。」
 タルト「そうなんですね。確かにいつもよりは硬いけど、小粒多めで人気出そうです!」
 アキ「小粒か(笑)まあ、小玉が多いのは許してや。なんだかんだと摘果が難しい年やったんよ。その代わり、味は良さげよ。」
 タルト「ですね!万人向けな味だと思います。ところで、早めに来たのはお手伝いしようと思ってのことだったんですけど...いらないっぽいですね。」
 アキ「あ、そういうのは大丈夫だけど、宮川早生の横に田口早生の取り残しがあるから、アザミちゃんとシジカちゃんに持って帰ってあげてや。」
 タルト「わ、それは喜ぶと思います!宮川早生が無くなっちゃって、催促されてますから(笑)」
 二人が話し込むと長い。仕事の話というよりも、脱線してからが長い。あーだこーだ話しながら、お互いのプライベートまで弄り合う。その時間が二人にとって、各々の過去の清算につながっていることにもなっていた。

 アキ「それはそうと、この前はめっちゃ嵐のような天気やってね。果実が傷みやすくなってる分もあるから気を付けてや。」
 タルト「同じような事もあるんですね!こっちの世界も最近海が荒れてて、船が無事に着くか心配なくらいだったんですよ。どうも自然の荒れ方ではなさそうなんですけど...」
 アキ「タルト、海の神様にお供え物するのもありかもよ(笑)」
 タルト「またまた〜、冗談ばっかり言ってないで。どんなに波が高くても大事な商品ですから、20号だけは守ります!」
 アキ「(笑)そう言って貰えたら作ったかいがあるよ。」
 他愛もない話を続ける二人。日が暮れる頃、タルトは足から根が生えないうちにと緑の国へと帰って行った。

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