万象森羅シェアワールド〜狸人族タルト編〜第一章:養子、出会い

第一章:養子 三節:出会い
 狸人族は13歳になるその年に親元を離れ、職業選択を迫られる。ある者は外へ、ある者は村に残りそこで身を立てる。ただし、男に関しては例外なく、一度は村を出なければならない。外で仕事を得て、一人前にならなければ帰ることは許されないのだ。

 村を旅立って3ヶ月。タルトは商人とともに首都へと入った。地の国の首都。工業生産で栄えた地の国において、全てが集まり、蒸気機関がやたらと目に付くやや騒がしい街だ。

「やっと着いた。おじさん、もうお腹が変な感じだよ。どこかで食事できないかな。」
 タルトは徒歩で3ヶ月かかる道中、まともに食事できていなかった。背負えるだけの食料を持っていても、食べられる量は制限しなくてはならない。個人の旅とはそういうもので、場合によっては何も食べられない日もあるほどだ。
「あー、旅とはそういうもんだから、ここを訪れる旅人にうってつけの店があるよ。早速行ってみよう。」
 商人はそう言うと左の方を指差し、タルトは待ちきれない様子で足を早めた。

 店に着いたタルトと商人は、何も言わずにテーブルにつき、じっと待っていた。すると、いきなり料理が運ばれてきて、タルトは目を丸くして驚きを隠せなかった。
「おじさん、これって。」
「これは回復食と言って、旅で疲れた体を癒す料理なんだ。腹が減ってるからっていきなりガツガツ食べると、体力を取り戻すどころか、かえって疲労を溜めることもあるんだ。」
「ふーん、そうなんだ。でも美味しいね。今はこれで充分だよ。」
「商人のマスタークラスともなれば、どんな長旅でも体調管理する術を知ってるけどね。ここは俺の所属する商会がやってるとこだから、タルトも覚えておくといい。」
「へぇー、旅って気を付けることたくさんあるんだね。また勉強になったよ。」
 タルトはそう言いながら軽目の食事をすませ、ふと店内を見渡していた。

 カランカラーン。
 店の入口のベルが鳴り、身なりの整った、しかし一見して場違いに思える服装の、姉妹が店に入ってきた。タルトはその二人に気付き、まるで昔から知っているかのような不思議な感覚を覚えた。商人も気付き、急ぎ二人の元へ駆け寄った。

「これはお嬢様方、わざわざお越しいただかなくても、この後こちらから伺いましたのに。」
 商人はそう言うと手招きし、タルトを二人に紹介し始めた。
「狸人族のタルトです。職業を選ぶために首都に来ました。仲良くしてください。」
 そう言うとタルトは両手を差し出し、姉妹に挨拶した。
「まあ、まだこれからの子ですけど、間違いなくお嬢様方にとっても役に立つ子だと思います。今から職業適性判断所に行ってきますね。」
 商人はタルトのことを、他の誰よりも気にかけている。姉妹への挨拶をすませた二人は、いよいよタルトの職業適性を知ることができる場所へと向かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?