見出し画像

「すばらしき世界」「Mank/マンク」

画像1

 一人の人間の生き様を描いた2本の映画の感想を。まずは「すばらしき世界」から。「この世界はちっともすばらしくも美しくもない」と思うことが増えたコロナ禍の昨今。それでも人は生きていかねばならないし、空は少しだけ広いのかもしれません。

 長い刑期を終えてシャバに出てきた元ヤクザの三上と、彼らを取り巻く人々の物語。正義感の強さゆえすぐカッとなってトラブルを起こす彼のような人は、身近にいたら大変だけど懐かしい福岡の方言のせいかどこか憎めない。そんな彼の悪戦苦闘を面白がるテレビマンの二人に最初は腹が立ちますが、私も同じようにエンタメとして消費してしまっていることに気づいて胸がチクチクと痛みました。

 なんとなく展開は読めつつも、完璧すぎるキャスティング、三上が何をするか分からない緊張感とユーモアの緩急が絶妙で最後はうっかり泣いていました。スーパーの店長役の六角精児がいい味で、私だったらあんなふうにキレられた時「今日は虫の居所が悪いんだね、また話そう」なんて言えるだろうか?辛抱強く見守って支えるなんてできるだろうか?いや、きっと逃げてしまうに違いない。三上がなろうとした「普通」ってそんなにいいものだろうか?正義って?優しさって?と監督に何度も問いかけられているようで、すばらしくない人間なりにこの世界が少しでもよくなるよう行動できたらいいなと思える作品でした。

 個人的に就職祝いで歌を歌ったのが「女囚サソリ」を演じた梶芽衣子なのと、組長役があの白竜だったのがツボでした。(ちなみに白竜は福岡出身)

 次はアルコール依存症の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツが「市民ケーン」の脚本を書き上げるまでを描いた「Mank/マンク」です。デヴィッド・フィンチャーは大好きな監督の一人だけれど、いまなぜ市民ケーン?と最初は疑問でしたが・・・大恐慌という時代背景、映画を利用したフェイクニュースやメディアと政治の癒着などつい先日のアメリカ大統領選を彷彿とさせなるほど!と納得。

 それだけでなく、フィンチャー監督の父親の脚本を元にした脚本家の話という二重構造になっていてあまり今まで感じられなかった監督のパーソナルな部分が垣間見えたのがよかったです。ゲイリー・オールドマンも素晴らしい演技だったし、こんな映画も作れるのね!と新たな一面を感じられて新鮮でした。アマゾンに「市民ケーン」があったので、見直しつつより理解を深めたいと思います。

 ちなみに見出し画像は人間と違っていつもすばらしいおキャット様です。