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「フレンチ・ディスパッチ」「ライダーズ・オブ・ジャスティス」「マザーズ」

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 映画の感想3本まとめて。まずはみんな大好きウェス・アンダーソン監督「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」から。

 3話からなる、架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の個性的なライターが集う編集部の物語。監督らしいアシンメトリーの構図や、隅々までこだわり抜いたインテリアやファッションなど情報量の多さに圧倒されます。それでも息苦しくならないのは、緻密に計算された流れるようなカメラワークのおかげ。完璧に作られたドールハウスの中をぐるぐると探検しているような楽しさがありました。

 とても一度では観きれないので、字幕を追わず監督の世界にどっぷり浸るのが最初の鑑賞方法としてはおすすめ。監督の雑誌「ニューヨーカー」やゴダールやトリュフォーなどのフランス映画への愛と尊敬の念が詰まっていて、元ネタを考えながら観るのも楽しいかと思います。あえてだるまさんが転んだ的にアナログな手法で撮ったという、ストップモーションシーンも必見。個人的には大好きなレア・セドゥがクールな看守役の第一話「確固たる名作」が一番好きでした。

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 次も大好きなマッツ・ミケルセン主演×アナ・トマス・イェンセン監督「ライダーズ・オブ・ジャスティス」です。同じコンビの「アダムズ・アップル」と同様、ポスターからは全く想像もつかない展開にびっくり。てっきり妻を事故でなくした軍人の復讐劇だと思っていたら、傷を抱えた男たちの再生と連帯の物語へ。

 自身も傷つき多感な年齢の娘にどう接したらいいか戸惑う父親に、ポンコツ理系トリオが関わっていくことで少しずつ変わっていく様子に笑い泣き。男性が自分の弱さと向き合い他者と助け合うことで再生していく物語は、最近の主流なのかなとふと思ったりしました。トリオの中で意外な才能を見せるエメンタール(一番右)が特にお気に入り。少々突っ込みどころもあるけれど、ラストのマッツのダサいクリスマスセーター姿が最高だったので満足です。

 最後はヒューマントラストシネマ渋谷の特集上映「未体験ゾーンの映画たち」で観たアリ・アッバシ監督「マザーズ」です。以前観て印象に残った「ボーダー」の監督の前作ということで、荒削りながら共通する部分もあって面白かったです。前半は胎内に異物を宿すこと、後半は親になることへの恐怖と戸惑いが描かれていた点で「ローズマリーの赤ちゃん」「イレイザーヘッド」風味。過度にエコでスピリチュアルな夫婦が不気味に描かれていたのも、怪しい祈祷師役であのビョルン・アンドレセンが出ていたのもツボでした。

 「ライダーズ・オブ・ジャスティス」も「マザーズ」も北欧の映画なんですが、笑いのセンスが他のヨーロッパ諸国ともアメリカとも全く違っていていつも興味深いなと思います。シニカルでも直球でもない、笑っていいのか戸惑うシュールさがあってだんだんクセになってきました。(気候による笑いのセンスの地域差ってあるような気がします。)あと映画関連だとアカデミー賞に「ドライブ・マイ・カー」が4部門ノミネートされるという嬉しいニュースがあったので、来月の授賞式が今から楽しみです。

 見出し画像は、新宿紀伊国屋地下から移転再開したカレーの名店「モンスナック」のバターチキンライス。食券制でピカピカになってはいても、味は変わらずホッとしました。