お見事でした
映画の感想2本まとめて。まずは「スパイの妻」から。舞台は1940年、ある国家機密を知ってしまいそれを世に知らしめようとする夫・優作とその妻・聡子の物語。王道メロドラマと見せかけて、こだわりの爪剥がし拷問シーンや終盤の聡子の底知れなさはしっかり黒沢清ワールド。夫の不貞を疑っていたごく普通の奥様から、真実を知り変化していく様子を演じた蒼井優は劇中の台詞を借りるならまさに「お見事でした!」。古風な話し方もゆりやんのモノマネみたいにならないのはさすがだし、クラシックな衣装もお似合い。私は水色のツーピースと上でも着ている辛子色のワンピースが好きでした。
それに対し、相変わらずの棒演技で目が死んでいた東出昌大は役柄にぴったり。変にうまくならないでこのままずっと棒は棒のままでいて欲しい気がしてきました。
新宿ピカデリーに展示してあった実際に使われた衣装。こうやって見ると辛子色というよりうぐいす色なんですね。
「狂った世界で狂っているのはむしろ正しい」ということが、今の日本の状況と重なって見えてラストの海のシーンが胸に刺さりました。これ、劇場版ということはドラマ版もあるんですよね。そちらも機会があれば観てみたいです。
次はA24作品「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」です。予告編を観た時は、祖父が建てた思い出の家を取り戻すために闘う話だと思っていたら・・・何度が出てくるなかなか来ないバスを待っているシーン、風変わりな町の住人、いつもつるんでいる親友、愛と憎しみの故郷からの卒業と旅立ち、そして一瞬しか出てこないけれどあの人がバスに乗っているなんて!もしやこれは男性版「ゴーストワールド」では?と一人で勝手に盛り上がってしまいました。
私の勘違いかもしれないけれど、映画の解釈なんて人それぞれなのでこれでいいのです。最初はなんで主人公ジミーがここまで「家」にこだわるのか不思議だったのですが、それこそが彼の存在証明のようなものだったのでしょう。でもそんなものがなくても彼の気持ちに寄り添う友達がいて、ただそれだけで十分なのだと思わせてくれるじんわりと温かいラストでした。
ちなみに見出し画像は「スパイの妻」の帰りに買ったとらや×ピエール・エルメのイスパハン。上品な甘さにバラの香りがふわっと広がってまさに乙女のお菓子でした。