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【ロン・バーガー氏のワークショップレポート】とにかくステキな方なので、この夏ぜひ多くの方に出会ってほしいという話

3月下旬。サンディエゴのハイテックハイ(以下HTH)を会場に行われる3日間の教育カンファレンス、Deeper Learning(以下DL) に参加した。

青空の下、ライブミュージックで始まる空気感はまるで音楽フェス!

DLの目玉は、2日目に5時間かけて行うDeep diveというワークショップ。コンセプトは、参加者一人ひとりが学習者として学びに没入すること。様々な教育者によるおもしろそうなプログラムがある中、私が参加したのはロン・バーガー氏のプログラム。DLでも大人気講師のロンを、この夏開催するDeeper Learning Japanのゲスト講師としてお招きする。

Deeper Learning Japan2024 東京会場は完売しました。8/8(木)京都での1day講座のみ、若干お席があります。詳しくはこちらからどうぞ。

そして、彼のことがあまりにも好きになってしまった私は、このすばらしい体験を伝えたいのに大事すぎて言葉が紡げず、ドラフトを書いてみては消し、DLに参加してからあっという間に3ヶ月以上が経過してしまった。あのときHTH大学院に留学中だった平岡慎也くんはとっくに卒業してしまった。Time Flies! 

先日もロンとオンラインMTGをした。あいかわらず、ステキすぎる。ロンのことが大好きすぎるので、せっかくの彼の初来日、日本で教育に携わる多くの人に出会ってほしいと心から願い、拙いながらもレポート(ロンへのファンレター)をまとめることにする。

ロン・バーガー氏は小学校教師として28年のキャリアを持ち、ハーバード大学教育大学院でも教鞭をとっている。ハイテックハイには創立時から携わり、多くの教員たちに影響を与えてきた。『An Ethic of excellence』(日本語版『子どもの誇りに灯をともす』)は20年前に発表された本だが、今もなお、多くの人のバイブルとなっている彼の代表作だ。

なぜ、HTHはものづくりにこだわるのか。
オーセンティックな学びをつくるとはどういうことなのか。

この本を読めば納得できると思う。そして、彼のセッションに参加してよりこの本の意味を深く理解できた。DLJapanに参加くださる方はぜひ、参加の前後でこの本を読んでみてほしい。なかなか読めない?時間がない?そんな方にぴったり!7月と8月下旬に読書会もあるのぜひどうぞ。

さて、やっと本題に入る。
今年のロンのDeep diveのテーマは『Beautiful Lettering for a Better World』カリグラフィーを学ぶワークだった。カリグラフィーとは、文字を美しく見せる手法のこと。ちなみに去年のロンのディープダイブのテーマは、ディスコでダンスだったらしい。そっちの方が気楽に参加できた気もするが、あえて自分が苦手なテーマだったのは結果として良かった。

私たちのクラスはまず、学校の外の芝生の上で輪になって自己紹介をするところから始まった。

こちらがHTH名物、美しい芝の広場!晴天率も高いので、しょっちゅうここが学び場に。

少し瞑想をして、同じ学びの旅をともにする仲間の声に耳を傾ける。アメリカ人、カナダ人、日本人。小中高の教員、校長、教育委員会の人など多様な人が集まっていた。ちなみに日本人の参加者は、『子どもの誇りに灯をともす』の翻訳者であり、お子さん3人がハイテックに通っている塚越悦子さん、留学中の慎也くん、私の3人。

ロンがはじめに全員に伝えたのは、優しいルール。「私たちのゴールは、みんなが納得のいく時間を過ごせること。だから、自分だけが上手くいったと喜ぶのではなくて、まわりに困っている人がいないか見て、協力しながら学びの空間を創り上げよう」と。

それは当たり前といえば当たり前のルールなのだけれど、この人に言われると素直に頷ける。開始早々、ロンに魅了された私たちは、「分かったよ、先生」と小学生のような気持ちで頷いていた。

教室に戻ると、机がガタガタするグループがあった。これから丁寧に文字を書く時間だというのに、机がガタガタするのは大問題だ。
そのグループのメンバー、ボランティアスタッフの悦子さんとHTHの生徒がほかの部屋の机と交換していた。それを見たロンは、教室全体に語りかける。「今、ここに困っている人たちがいるよ。自分のテーブルが良ければいいってことじゃないんだ。みんなが学びに向かえる環境をつくるんだよ。」

学びの環境・文化をつくりあげる上で大事なことは、繰り返し伝える。これも当たり前なのだけど、大事なことだ。きっとロンは小学生にむけてもこうして何度も大切なことは何度も伝えてきたんだろうなと思った。

プログラムは模写から始まった。お手本は、ロンが参加者全員の名前をイタリックの字体で書いてくれていた。なんというギフト!ちなみに名前から入るのは、人が1番多く書くのは自分の名前だし、その人のアイデンティティだからだそうだ。
私のスペルはどちらの字体も間違っていたけど、OKAYUの5文字があれば組み替えてなんとかなるから良い。

Oが絶妙に難しいんです

下にお手本を置いてなぞったり、横に置いて模写したり。カリグラフィー用のペンというのを初めて持ったけれど、なかなか扱いが難しい。
みんな黙々と書き進める。イタリックをある程度試すと、今度は違う字体にトライ。こちらはペンを変えて、お手本を見ながらまた書き進める。

たくさんの字体のお手本が配られて、好きなものを試した

それぞれが黙々と描いていると、ロンが各テーブルをまわり、質問に答えてくれた。そして、クラスの進行状況を見取ったロンは、何人かの作品を教室の前に張り出し、全員を集めた。

ロン「この〇〇はとてもきれいだね。もっとよくするにはどうしたら良いだろう?」
参加者「文字と文字の間隔が均等ではないから、そこに気をつけたら良くなると思う」
ロン「そうだね。文字の間隔を均等にするととても重要なことだから、みんな意識して書いてみて。」

クラス全体で批評する

クラス全体で批評したり、同じテーブルを囲んだメンバーでもアドバイスをもらう。そんな事を繰り返しながら、ポイントを押さえて練習していった。

最後は、自分の名前をオリジナルのデザインで表現することにトライした。本やロンの生徒の作品を見ながら、イメージをふくらませる。

めちゃくちゃすてきなデザインがたくさん!

あっという間にすてきなデザインを仕上げる人たちを見て焦りながら、私もなんとか形にしていった。自分の名前を書き終えたら、家族の名前や学校の名前をデザインしている人もいた。作品が完成してから「あ、スペル間違えた!」と気づく人もちらほら。(スペルミスはアメリカあるあるな気がする。笑)

黙々と、時にわきあいあいと取り組んだ

ロンはクラスを見回りながら、何人かの作品をピックアップして教室の前に張り出した。「こんな作品を作っている人がいるよ。これはどういうモチーフか説明してくれる?」そんな感じでクラスメイトの作品を見てまたヒントを得たり、もとの字体の練習に精を出す人もいたり、それぞれがやりたいことをやりながら、最終の成果物づくりを進めた。

私の作品も、前に張り出された。とっても不思議だったのは、それまで自信がなかった自分の作品も、大好きな先生に選ばれ、教室の前のブラックボードに張り出されると急に良い作品だと思えたこと。自分の作品を誇らしく思う、という感覚が少し分かった気がした。

見てくださいこの先生が自分の作品を選んでくれて嬉しくなってるわたし

ロンが大切にしているのが、「モデル」。つまり良いお手本、目指すべきゴールを提示すること。質の良い作品をつくるとき、「質の良い作品とは何なのか?」まずその感覚を養うことが必要だ。美しい文字を書くためには、美しいお手本が必要だし、ユニークなデザインをするためには、たくさんの良いサンプルからインスピレーションを得る必要がある。教師は、良いと思えるお手本を実社会、プロフェッショナル、ほかの生徒の作品から集めてくるコレクターであるべきである、とロンは言う。

ロンの生徒の作品。いろんな字体のデザイン。

こうして、美しいオリジナルのレタリングを作成するために、モデル→批評→改善のプロセスを体験したのだが、良いお手本を真似る、というのは書道や硬筆のそれだが、「みんなでどうしたら良くなるかを客観的に批評する」という作業は、あまり学校で経験して来なかったことに気づいた。

闇雲に練習するのではなく、まわりの友達と一緒に改善ポイントを探して、また友達の作品からインスピレーションをもらいながら進めていく。この過程に粘り強さが育ち、良いものを目指して創りあげていくことが当たり前だという文化が育まれるのだと思う。

さらに、3種類の太さのカリグラフィーペン×ふつうのペン×たくさんの字体と、選択肢が複数あったこともよかった。最終成果物を創る段階では、オリジナルな表現をすることも、もとのシンプルな字体を極めることも自由だった。膨大な良いサンプルに囲まれ、さまざまなトライをし、最終的に自分の好きな形で作品をつくる。この選択肢の多さが、一人ひとりの取り組みの没頭度合いを増したような気がする。

一日の最後に、私たちは次の日のエキシビションの準備のため、作品を張り出し、部屋のレイアウトをつくった。HTHのエキシビションになぞらえて、部屋の中央のテーブルには練習した紙を並べた。

ブラックボードに完成品を。机には練習のプロセスを。

そしてやはり、芝生の上で一日を締めくくった。
「今日学んだのはどんなこと?どんなことに気づいた?明日からにつなげたいのはどんなこと?」
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次の日、エキシビションではすべてのクラスが前半後半にメンバーをわけて、ホスト側は教室に来た人に自分たちのやったことを説明し、質問に答える。ゲスト側は好きなに教室をまわり、説明を聞き、質問をする。

私がホストを担当していたとき、留学当時お世話になったブライアン先生(MLTSにもちょこっとご出演)が来てくれたので、説明した。どういう流れでワークをしたのか、どこが難しかったのか、など。ブライアンからは、ロンがたくさん持って来てくれた生徒の作品を見て、「あれはデジタルで描かれた?」と質問があったので、「全部手で描いてるんだよ!」と、さも自分の作品かのように誇らしく答えておいた。

Deep Diveの講師の1人として参加していたブライアン先生

白状しよう。私は留学当時、説明するのが恥ずかしくて、自分の発表ブースにいなかった。つまり、エキシビションでちゃんと説明するのは初めてだった。
それが今回、エキシビションでホストをして、高揚感を味わうことができた。"私たちの作品を見て、プロセスを聴いて"という気持ちになれたのは、自分の作品に誇りを持てたからだ。苦手なものでさえ、誇りを持てるようになる。アートが苦手な人間にこう思わせてくれたのは、ロンの設計のなせる技だ。そして、「良い作品をつくった!」という感覚がないと、本気の発表にならないことも身に染みた。

後半はゲストとして、いろんなクラスを見に行った。どんなプロセスでなにを学び、最終的にどう表現したのか。どのクラスに行っても、みんな生き生きと説明してくれる。お祭りのような熱気が学校に満ちていた。

たとえばこんな展示方法。自然と質問したくなってしまう。

Deep Diveの最後は、片付けをして、やはり芝生の上でリフレクションをした。2人1組になって話した後、みんなで輪になった。「この中で特に感謝を伝えたい人を挙げるとしたら、誰?」そんなことを盛り込みながら、1人ずつチェックアウトして締めくくった。

たったの1日半。時間にするともっと短い。けれど、とても満ち足りた時間を参加者全員で共有できた。師と呼べる人に出会えたことに心があたたかくなった。

We love you Ron! 

最後に、ロンはHTHの教員たちにとっての先生的存在でもあるが、それ以上に、発達特性がある子や、貧困地域の教育困難校の児童生徒たちに向き合ってきた人だということを付け加えておく。小さな一歩を踏み出すことを後押ししてきた彼に会えば、きっと勇気がもらえる。長くなったが、少しでも彼に会いたいと思ってもらえたらうれしい。DLへの参加が難しい方には、『子どもの誇りを灯をともす』をおすすめします。




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