見出し画像

不確定日記(においあわし)

 外に出たら思ったより寒く、ダウンジャケットを着ている人も多い。すれ違った女性が「さむ!」と言いながら小走りになった。自転車を漕ぐ人は風に対抗して前傾姿勢でこちらに向かってくる。

 人間ドックには文庫本を持って行ったほうがよい、という友人からのアドバイスにもとづき、書店の文庫棚を見に行く。『脳のなかの幽霊』が気になったが、体や病気に親和性がありすぎるタイトルだと緊張しそうだ。結局、もともと読みたかった『第四間氷期』にした。
書店を出ると小雨が降っている。人混みから「あ、もう降ってきちゃった?」という声が聞こえて、ちゃんと天気予報を確認していて偉いな、と思う。

 冬用のスリッパが毛玉だらけなので春夏用のを買う。ほとんど家にいて、ずっと履いているのでスリッパが半年でボロボロになる。営業職は靴を消耗するっていうもんな、と思うが、何が「もんな」か。

 帰って台所を見たら、いつもと違うところにスライサーがあるな、とその周囲を見て、道具類を吊り下げている棒をタイルに貼り付けている吸盤が片方落ちていた。湿気が多い日は落ちやすい。雨降ったもんなと納得したものの、落ちたままにして、買ってきた魚屋の切り落とし海鮮丼を食べ、落ち着いてからおたまや鍋敷きやトングとそれを吊るしていたたくさんのS字フックを拾い集める。

 口笛は、真ん中あたりの音だけちゃんと出る。他は、何かの条件が良いと出るが、まだそれがどんな状態なのか体得できない。「おぼろ月夜」を適当に吹いて、歌詞をちゃんと知りたくなり検索したら、短い詞の中に季節、近景、遠景、におい、音、時間の経過、がすべて入っていて感動した。今日の春風はそよ吹くというよりは吹き荒れていた。

 夕食は、いつか食べてみたかったいわし明太を見つけたので焼いたのと、菜の花のおひたし。冷蔵庫に菜の花があったから、「おぼろ月夜」が思い浮かんだのだと食べながら気づいた。(それと、「においあわし」には「いわし」が含まれている。)

そんな奇特な