2020本格ミステリベスト10読んだよ


 毎年、友人と「本格ミステリベスト10」の上位三作品を何が取るか、3連単で予想するゲームをしている。
 ぼくは殺人犯対殺人鬼、お前の彼女は二階で茹で死に、刀と傘だと予想した。どれもどこか古く懐かしくもあり、かつ新しい地平を切り開こうとするフロンティアスピリッツにあふれた本格作品だ。
結果を見てみれば上位三作にランクインしたものはひとつもなかった。
友人は二作を当てていた。
 ぼくは無念さと憤りでアロスティチーニの串を噛みちぎりそうになりながら、時代の移り変わりを思った。
どちらかというと勢いのある大きなネタよりも、設定で読者の心をつかみつつ、堅実なよさを重ねる作品を評価していた。ミルクボーイもよかったけれどオズワルドももっと評価されてほしかった。
だけど『medium』の一位は納得だった。これは環境メタデッキだ。2018年(2017本格ミステリベスト10)一位が屍人荘の殺人だったことと、今年の一位『medium』、二位『魔眼の匣の殺人』という並びを見比べてみると環境の変遷が見えるだろう。今村昌弘も優秀なデッキビルダーであることを考えると、いかにmediumの構築が環境に刺さったかがわかる。最強だったオーコもBANされて環境は激変した。そういうことだ。

 環境の変化といえば、今年は初期シリーズでクイーン的なロジックを展開していた青崎有吾が放った『早朝始発の殺風景』が印象的だった。これは論理のゆらぎを青春になぞらえて物語にしたような連作短編で、進化を感じた。SHIN化人類だ。彼の作品でいちばん好きだった。

 海外ミステリのほうはふたりともぜんぜん読んでいなかった。ランクインしていた新作では『ディゲネス変奏曲』くらいな気がする。これを読むと推理小説作家がみんな人を殺していることがわかり、よかった。ほかには、本格系ではないけれど男と女の手紙と物語、嘘……そう書いて人生と読む『国語教師』、ヤクチュウのTVショーマンがホテルの一室に五人くらいで軟禁され、謎の人物に、なんか風呂で死んでるやつ……を殺した犯人の指摘を命じられる『名探偵の密室』が好みに合った。最近カイジのクズ描写みたいなものをとてもおもしろいと思うようになった。チンチロリン編を再読してみると、昔読んだときの百倍ほどおもしろく感じられてびっくりした。名探偵の密室も同じヤクチュウとして共感できたのかもしれない。

 さいきん海外小説は読んだものだいたい良かったなあと思っている気がする。つまらないものを出版する余裕がなくなってきた的な事情だったら悲しい。小説でもなんでも、できるだけおもしろいものに触れたいと思っているけれど、別につまらないものを避けたいと思っているわけでもない。
でもぼくもそれなりに暇ではなくなってきたので、あまりつまらないものを読んでいる時間がなくなってきて、悲しい。

 なんだかんだ言いつつ、今年最後の読書は、積んでいる『メインテーマは殺人』に手を出すのだろう。海外編一位だったという理由で。
時代が変わったというより、ぼくも歳をとったのかもしれない。友人と楽しくミステリについて話せる時間もいつまで続くかわからない。昔は海外ものの予想もしていたし、集まれる仲間はもっと多かった。ぼくたちは変わっていた。

赤ワインのグランタを開けつつ、食事代を全額おごって友人と別れた。
クリスマス前の底冷えする夜だった。

 

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