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逝く冷蔵庫、来る冷蔵庫

冷蔵庫が逝った。

新婚時代から、10年ものあいだお世話になった冷蔵庫。シルバーの大きなやつ。観音開きで、いかにも「家族用」という感じの存在感があって、我が家のキッチンにしっかりと馴染んでいた。

はじまりは朝だった。
夫がドアからひょっこりと顔を出し、洗面台で支度をしている私に言う。
「ねぇ、やばいよ」
その口元が笑っていたので、子ども達の寝相がおかしいとか、芸能人の誰かと誰かが結婚するニュースを見たとか、そんなことだと思った。

が、そのあとに続いたのは、
「冷蔵庫にエラー出てるよ。開けてみたら、ぬるかった!」
という、衝撃の言葉。我が家の大切な冷蔵庫の一大事に、ちょっと笑っているのが信じられない。

私は「はあ?」と言うが早いかキッチンへ駆けていき、息を引き取った冷蔵庫を呆然と見つめた。いや、信じられなくて、上部にある「新鮮凍結」のボタンなどを連打した。

小さな液晶にはHと29が交互に表示され、どうやらそれが現実のようだった。携帯でエラーコードを調べた夫が、「パーツ交換だから修理を呼ばないと」と言っていたけれど、なんだかそういうことじゃない気がした。オワタ、と思わず呟く。

だって、この冷蔵庫は10年選手なんだから、修理じゃなくて買い換えるべきタイミングなのだ。タイムイズオーバー。おつとめ、ごくろうさま。

そっと冷蔵の扉を開けると、中はもう完全にぬるくなっていて、とりあえずバターやチーズを無表情で冷凍室に放り込む。
幸いにも、週末だから食材はそんなに入っていない。急ぎのものは昼、夜で調理して食べれば大方は済むだろう。でも、昨日の夜まで普通に冷やしてくれていた冷蔵庫が、こんなにスンッと逝ったなんて、信じられない。

朝食後にアイスを食べ、夫と子ども達は大喜びだった。今日だけは、アイスは朝から食べ放題。むしろ食べたほうが偉い、という世界線。世界はいつだって簡単にひっくり返るのだ。

その後、在宅勤務の私と、GW中の夫の中で迅速な決定があり、数時間後には夫が家電量販店で新しい冷蔵庫を購入した。

LINEで送られてきた冷蔵庫の写真には「140,000円」とか「230,000円」とかちょっと飲み込み辛い数字が書いてあった。POPなフォントで表示していい値段じゃない。黄と赤で、スーパーの軒先でキャベツを売っているようなフォント。腹立つ。

でもでも、140,000円でも10年くらい使うわけだから、1年あたり14,000円、1日にしたら38円…?目を瞑り、一呼吸置いた後「任せます!お金は問わない」と返信する。

かくして、我が家には今、新しい冷蔵庫がある。
新しい冷蔵庫は、白くて前より一回り大きくて、ピカピカに輝いている。
正直、ちょっとテンションが上がっている。かわいい。

古い冷蔵庫とお別れするとき、からっぽになった冷蔵庫をまじまじと見た。キッチンペーパーにセスキを吹きかけ、中を拭いていく。なにやらシミがあったり、ハムの束についていたシールの切れ端が付着している。こんなに汚れていることすら、麻痺していて気づかなかった。

その間、冷蔵庫はピーピーピーピーと電子音が鳴っていて、あのあれ、心電図みたいだった。そのうち家電量販店のポロシャツを着た力持ちのお兄さんに線を抜かれて、冷蔵庫は今度こそ本当に、逝ってしまった。

白物家電の寿命は、8年らしい。
彼は大往生したのだ。そして、我が家のレンジ、炊飯器、洗濯機、すべて10年選手の高齢者。そういえば、ここしばらく炊飯器はボケていて、水分量と米の硬さが一致していない。

逝く冷蔵庫、来る冷蔵庫。
新しい時代の幕開け。
さあ、来週は何を作ろうかな。

ここまで書いて、つまんね、と思って下書き保存していた。
そうしたら今朝がた、洗濯機が逝った。冷蔵庫の後を追うように。エラーコードが出ていたが、調べたら「分解してみた」というブログが表示されたので一瞬で閉じた。

書かないと次々逝くのではないか?という恐怖から、これを書いている。

#雑記  

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