③最後の時間

手術当日。
午前中に新居リフォームの進捗状況を確認する予定があり、久しぶりに家族で出掛けた。3ヶ月ぶりくらいな気がする。
自分たちの理想通りにリフォームが施された新居を見れたこと、久しぶりに外食をしたこと(私は手術直前の為何も食べれず)、手術までの時間を潰すためお気に入りのショップを見て回ったこと、久しぶりに休日らしい休日を過ごし本当に楽しかった。
今思えば、これが家族4人で過ごした最後の時間だったと思うと幸せだったかもしれない。

有意義な時間を過ごした後、4人で産院へ向かう。
夫と娘は、娘が生まれた時ぶりにここに来たことになる。
何もわからない娘に対し「ここ覚えてる〜?」なんて無茶な質問をしながら1年前の思い出を懐かしんだ。
ここでもまた1時間半ほど待つことになったが家族と過ごす時間はあっという間だった。

名前が呼ばれ4人で診察室へ入ると初めて見る男の先生がいた。
今回の手術を担当する医者ということで紹介を受けた。
まず手術の説明を受ける。
妊娠している間はその時が来るまで絶対に開くことの無いよう、子宮口に固くロックがされているが、まずはそのロックを無理矢理こじ開ける処置をする。
子宮口に専用の棒を詰めて、給水させて膨らませる。
この処置はそこまで痛みを伴わないと伝えられた。
その後は全身麻酔下で行われる処置で、棒が最大に膨張したところで抜き取りその隙に子宮内物を全て吸引して取り出すというものだった。
実際の手術は10〜15分程度で終わるが麻酔が解けるのは2〜3時間かかることや、コロナの影響で待機室を開放していないという理由により、先生からの話が終わると同時に夫と娘は帰宅してもらうことにした。
その時はお使いを頼むくらいには余裕があった。

その後はお腹の子と2人きりになり、すぐに別室に移り説明通りの処置を受けることになった。
最後にお腹の子のエコーを見た時と同じ部屋だった。
いつも通り服を脱ぎ、内診台に座っていつもの体勢にされる。
説明を受けながらゆっくりと処置をされた。
10分くらいで終わったと思う。
膣内にかなりの異物感はあるが痛みはなかった。
台から降りると台や床に自分の血液が大量に垂れている光景が目に飛び込んできた。
その瞬間、身体の意に反した処置を無理矢理行っていること、2度とお腹の子と会えなくなってしまう時が刻一刻と近づいていること、自分の血液を見たことで一気に現実味が増して急に怖くなってきた。
いきなり吐き気を催してきたためトイレに駆け込みそのまま全てを吐き出した。
穴という穴から液体を垂れ流し便器に顔を突っ込んだまま過呼吸になった。
そこからは説明通り、専用の棒が最大に膨張するまでやはり待たなければいけなかったが、お腹の子と2人きりで耐えるには苦しすぎる時間だった。

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