#19 シナイ山で死にかけた話⑭ epilogue
聞いた、見た、試した。
もうここに思い残すことは無い。
太陽は地平線から離れて小一時間。
日光も体にチャージされてトカゲ系男子の私は活性を取り戻した。
0830(マルハチサンマル ※くらい)帰投を開始する!
新たな戒
何よりも腹が減った。
よく考えたら食料も持たず、水も最低限、何かあればイチコロの装備である。
若いって素敵やん。
下山はもちろん悔い改めの階段で。
同じ道帰っても面白くないからな。
岩の階段を重力のアシストをもらって降るだけなので、サクサクと降りれる。
ゆっくり降りるご年配の登山者を抜き去りつつ降る。テンションもあがり段々とスピードアップ。
調子に乗った瞬間。
ぐきっっっっ!!
「ぎゃーーーーーーー!!」
岩を踏み外し、足首をグネる。。。
そう、私のいつものパターンである。
最後に第11番目の戒を授かる。
「山は降りの方が注意せな、あかん!!」
行きはよいよい帰りは恐いを身に持って学ぶ。
サンタカテリーナ到着
足首をぐねって今更慎重にペースを落としたものの、無事サンタカテリーナ到着。
超絶腹ペコリーノである。
飯屋を探し入店、勿論、
「お母さん、この店で一番安いコシャリを頼む。」
次の行く当ては特に決めていなかったので、とりあえずカイロに戻る。
よく考えたら、ここから北上してトルコに行くには、イスラエル、ヨルダン、シリアなどを抜けて行かなければいけない。流石にちょっと危ないかも。
マナブの写ルンですで思ひで写真をパチリと撮影して、また行きと同じ苦行バス移動開始。
いや~、ユウキ相変わらずイキってるわ~。
ちなみに私も写ルンですを2個くらいは持っていっていましたが、帰国後現像にも出さず、大学卒業して引っ越すときに捨てるという暴挙にでる。
男って、こうゆうの大事にしないよね。俺だけか?
帰カイロ後の足取り
カイロに帰ってからは古巣の安宿を起点にエジプト国内をウロチョロ。
記憶に残ってるのは地中海に面した街、アレクサンドリア。
何でアレクサンドリアに行ったかって?
名前がカッコイイからよ!
前情報なしにアレクサンドリアに行ってみると、どうもここはバカンス、バケーションで行くような街。
ビーチという表現が適正なのか、砂浜という表現が適正なのかはわからないが、地中海に面したこの街は開放的なイキフン。
現地で仲良くなったキッズと一緒に海で遊んだりした記憶。
砂浜で物売りのおっさんが寄ってきて、しつこく、「ウニ(日本語)食え、ウニ食え」というので、根負けした私が注文すると、出てきたのは完全なるイカだった記憶。
そして砂浜から引き揚げる時にそのおっさんの商売小屋を見たら、雑にまとめられた生のイカに大量にハエがたかっていた記憶。
そして案の定その後から激しくお腹を壊し、人生史上一番臭いと思われる屁をこいた記憶。
エジプト周遊後は、奴隷船に乗って地中海を渡りトルコ入り(奴隷船は完全に嘘)。
トルコではろくな事していないので、ここでは書けまへん。
トルコはトルコで素敵な国だった。
エピローグ1:帰国モード
日本への帰国フライトの日程にあわせ、持ち金を消費していく。
帰国前日には、空港に行くタクシー代かバス代のみを残し素寒貧の状態。
まあ、飛行機乗ったら機内食出るしね!
金もないので早めに空港に行く。
カウンターで手続きを終わらせるが、まだ出国ゲートを越えるには早すぎるのでターミナルで時間を潰す。
腹が減った。
エピローグ2:違和感
空港の椅子に座ってダラダラしていると、ユウキとマナブが言う。
「暇なんでちょっとブラブラしてきますわ。」
「いってら。」
何の気なしに返事をしたが、5分くらいして、ふと違和感を感じる。経験上何か変だ。
Tに荷物番を任し、ユウキとマナブが向かった方向に向かう。
エピローグ3:確信犯
その先は土産物屋などが並ぶゾーンで見通しは悪く、人も多い。
これじゃ見つけるのは難しいか、と思いつつ、何となくで巡回を続ける。
買えないけど土産屋で時間を潰してるのかなと考えながら、確かバーガーキングの前を通り過ぎる。
通り過ぎようとした瞬間、視界の隅に違和感を感じる。
そこにはニッコニッコの笑顔でハンバーガーを貪り食うユウキとマナブの姿が。
エピローグ4:再犯
「おいっ!!」
ビクッとしたユウキがこちらを見る。
数秒フリーズした後、残りの二口分くらいのハンバーガーを急いで口にねじ込み、咀嚼。
「いや!岡野さん!!ちがいますねん。今たまたまズボンのポケットの奥底にトルコリラが少しあったのに気づきましてん!!いや~~、これにはワイも参った!ねえ、マナブはん!」
はい、絶対〇す!!
そういえば、食料持ち込み禁止シバリの無人島にも、こそっとジャガリコを持ち込んで陰で食い、無人島侮辱罪及びジャガリコ取締法違反で執行猶予付きの有罪判決をくらっていた輩である。やはり私の違和感は間違ってなかった。
エピローグ5:離陸
まあいい、貧すれば鈍する。
民の弱き心に慈愛をもって接するのが君子の道である。
こちらも空腹マックスで神経がとがっている。
落ち着いて!タケハル!
多少のしこりを残しつつ軽い注意で事を収め、しばし時間を潰し出国ゲートを通過し、飛行機、アエロフロートへ。
あー、腹が減った。
エピローグ6:走馬灯
窓側シートに座り、飛行機が離陸すると、蓄積した疲れと極度の空腹ですぐに意識が遠のいていく。
旅の思ひ出が走馬灯のように走りながら眠りの底へ。
どこくらい時間が経ったかはよくわからないが、カチャカチャという音と匂いで目が覚める。
ゆっくりと目を開けると、食事が配られ横で3人が無我夢中で食べている。もう食べ終わりそうだ。
こんだけ空腹を訴えていたのに、何で起こさんの??
エピローグ7:理屈
するとユウキ。
「いや~お疲れと思いまして。悩み申したがひとまず起こさずにおりました。さあさあ、給仕を呼びましょう!ビーフorチキンorフィッシュ、選り取り見取りでございますさかい。」
イマイチ釈然としないが、まあいい。
先にいるロシア人女性CAがこちらを向いたときに手を上げる。
なかなか来ないが、やっと能面のように表情の乏しいCAがこちらに来る。
エピローグ8:ドS CA
「ドウシタ?」
「寝てて飯をもらってないから頂戴な。ビーフがいいかなぁ。」
「メシヲクバルジカンハオワッタ モウナイ」
「いや無いわけないですやん。チキンでもフィッシュでもいいから頂戴な。」
「ナイモノハナイ ネテイタオマエノセキニンダ」
取り付く島もない。
しばし食い下がるが、こちら以上にロシア人女性CAの機嫌の方が瞬間湯沸かし器的に悪くなっていく。
なんでやねん。
エピローグ9:黒パン疑獄
最終的に「ネエモノハネエ」で踵を返し去っていくCA。
この不条理と空腹でごちゃごちゃのメンタルで崩れ落ちるように座席に座る。
するとユウキが透明のビニール入れられたある物をキラキラした目で差し出している。
それにならったマナブとTもそれを差し出す。
黒パンである。
ユウキ「岡野さん!心中お察し申しますが、ここは致し方なし。これをお食べください!」
お、お前ら、、、
ってこれ、行きにクソ不味いって散々言って誰も食わんかった黒パンやないか!!
ギリギリこらえていた理性の糸がプチンと切れる。
エピローグ10:一揆鎮圧
ユウキの差し出した黒パンをつかみ取り、通路を挟んで向こう側にいたマナブに方に黒パンを剛速球で投げつける。
ふざけんなよ!
するとすぐさま鬼の形相でロシア人女性CAが飛んでくる。
「HEY!YOU!!ヒコウキカラオロスゾ!!」
こんな時は来るの早いんやな!
とはいえ、食べ物を投げるのは良くない。ロシアに秒で蹂躙されて降伏する。
俺がゼレンスキーだったら違ったのか。
エピローグ11:Bon Appetit
はぶてあげて(はぶてる=不貞腐れる)しばし窓から外を眺める。
・・・・やっぱり無理だ
「ユウキ」
「はい」
「まだ黒パンはあるか?」
「もちろんでございます。お食べになりますか?」
「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、食おうと思う。」
「賢明なご判断でございます。拙者、バターも残しておりますれば。舶来ものでございます。」
「おう」
「Bon Appetitボナペティート」
こいつ、絶対〇す。。。
黒パンにバターを塗り、食らう。
腹に染み渡ると共に、ちゃんと不味いやないかい!
最後に
そんなこんなもありましたが、今回も五体満足で帰国することができました。
気が付けば1週間に一回の更新で12話、総計5万文字弱くらい、サボりを2回したので期間は8カ月にわたりこのしょうもないシリーズを続けて参りました。
時に忙しくて手が出せず締め切りに追われることもありましたが、基本的には仕事の丁度良い息抜きにもなり、また意外と方々から反響も頂き、やって良かったなあというのが感想です。
こんなシリーズであればネタはいくらでもあるので、またタイミングがあれば書いてみたいと思います。ただし、うちのウシロがギリギリしている通り、そもそもが岡野バルブの広報の一環としてのこのnote、なんの広報やねん感は否めないので、ひとまずは社業を絡めたネタに回帰します。
最後に、このしょうもないnoteを読んでいただいた皆様に御礼申し上げると共に、特に管理督促をしてくれたうちのウシロ、イラストを担当してくれたダビデ、記憶の照合をしてくれたユウキ、写真の提供をしてくれたマナブにこの場を借りて最大の感謝をさせていただきます。
それではまた!
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