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「お金のマニュアル」 -損をしないコツ- 其ノ8 投資の基本マニュアル

 <投資の基本マニュアル-生活資金と余剰資金>

 先ほどの私の母の例に戻る。突然知識も経験もない株式投資に乗り出したこともショックだったが、投資に振り向けた金額が大きくて驚いた。老後の生活資金まで増やそうとして株を買っていたのである。実はこういう人が結構多いのではないかと心配している。

 なぜならほとんどの場合失敗した時の手立てを考えていないから。生活資金までこのように投資に振り向けると、株が上がればいいが、下がった場合無理にでも損切りをしなければいけなくなる。この「売らなければいけない状態」が投資や相場では大変まずい。冷静に考えたり我慢したりする余地がなくなり、どんなに売値が不合理でも「投げ売り」の一択になってしまう。

 これが不思議な物で、自分の「損切り」が終わると何事もなかったように相場はすっと元に戻ったりする。まるでこちらの「損切り」を待っていたかのように。本当に腹立たしいがどうしようもない。

 実は相場の世界では "他人の「損切り」は拾え" とよく言われており、こういう「投げ売り」を狙っている。みんな口を開けてご馳走(Free Lunch)を待っているのである。誰かの損は自分の得、「ゼロサムゲーム( Zero Sum Game)」と言われる所以だ。繰り返しになるが、とにかく「損切り」に追い込まれる状況を避けるべく事前に策を練っておくのが投資を成功させるコツの一つだと思う。

 <外貨投資のマニュアル>

 外貨投資の場合だと、為替証拠金取引の普及で大分一般化し成熟してきているので、例えばドル預金では円高になれば円換算で損をするというような理屈は今では広く認識されてきている。一時日本でも一部の証拠金トレーダーが「ミセス・ワタナベ」などと持てはやされて、証拠金の何百倍もの取引を手掛けて華やかな時があったが今は随分落ち着いて来ている。今振り返ってみると、あれも結局カジノの胴元にどんどん掛け金の高いギャンブルに引込まれただけなのかな、と思う。最後にばっさり、というやつである。

 生活レベルでは、よく知人・友人などに「ハワイ旅行など米国に行ってドルを使う予定があるなら、その見込み額分だけドルが安くなった(=円が高くなった)と思った時に円をドルに替えておけば良い」というようなアドバイスをする。主目的は先程触れた「投げ売り」を回避するため

 仮に見通しを誤って円高に振れてもそのドルはハワイで使えば良いし、逆に円安になる分にはお得感が増すだけなので随分気楽にできる。つまりいざという時の逃げ道を作っておく事だ。最低限の生活資金まで過剰なリスクにさらすような投資は厳に慎むべき。知りもしない投資で損を出すぐらいなら、その分温泉旅行にでもいって使ってしまった方が余程ましである。

 <自分の投資マニュアル-後悔しないために>

 それではお金のない人は何もせずにおとなしくしていろ、と言うことなのか。いや、そういう事ではない。実は100万円でも100億円でも同じ投資をすれば理論上同様の結果が得られるわけで、問題は持っているお金の多寡ではないからだ。まずは自分の置かれている生活環境をきちんと把握し、どのような投資にいくら振り向けられるのか、あるいは不測の事態にどう対応するのかを事前に検討しておく事が肝要だと思う。

 マスコミの流す「耳より情報」や業者の「お勧め」なども鵜呑みにするのではなくまずは自分で確認してみよう。「裏を取る」と言うやつである。何でも人任せにするのではなく、自分の状況に見合った投資を選択する事だ。

 それでも予想外の出来事に巻き込まれることは多々ある。長年市場に関わってくると、その不条理さ故に儲かっても「神様ありがとう」「運が良かった」と思うようになる。しかしそれも十二分に準備をした上での結果であり、「運」以前に単純な見落としや判断ミスをすれば結果はついてこない。ヤクルトの野村元監督の言った「負けに不思議の負け無し」である。

 本当の納得感、満足感は自ら努力、判断した人にしか得られない。「運」や「神様」もなぜかそちらに味方するもの。

 其ノ9からはもう少し具体的な金融商品を挙げて解説を加えてみよう。

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