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11年振り「国債買入」オペの "札割れ" ー 銀行は何を考えているのか

 5/23  日本銀行が23日に実施した定例の「国債買入」で、残存期間1年超3年以下について応札額(3,564億円)が予定額(3,750億円)に届かない "札割れ" 。2013年の異次元緩和導入以降で初めて
*3年超5年以下 4,250億円に対して9,844億円の応札(倍率@2.32倍)
 5年超10年以下 4,250億円に対して1兆31億円の応札(倍率@2.36倍)

  "札割れ" を大分久しぶりに見た。通常だと「国債買入」の "札割れ" は「銀行が国債を持っておらず市場に足りない」≓「需給」の引き締まりから「金利低下」要因となる。だが今回はどうも様子が違う

 銀行が「損」を確定させるのを嫌がったからではないか

 2年JGBは概ね@0.33~0.34%で取引されているが、この水準は2年以内に日銀が+0.5%「利上げ」することを織り込んだ水準「そんなに利上げしないんじゃないか」。そういう "淡い期待" が滲む。年内に最大+1%の「利上げ」を見込んでいる「損切丸」とはえらい違い(苦笑)

 ♪「金利」を知らずにぼくらは育った♪

 思わずこんな替え歌(古い!)が浮かんでしまうが、直近で思い起こすのは 「金利」は時に「為替」より怖ろしい|損切丸 (note.com)

 5/22 農林中金奥和理事長「想定を超えるような金利の引き上げだった」
(2023年度決算資料)有価証券評価損▼1兆7,698億円
 内訳:債券▼2兆1,923億円、クレジット等▼1,644億円、株式含み益 +5,869億円

 債券で▼2兆円の「損」??

 1994年の例、e.g. グリーンスパン議長による6ヶ月間で+1.5%超の急速な「利上げ」、を紐解けば「損切丸」でなくとも@4~4.5%程度までの「利上げ」は想定できるはず。確かにパウエル議長による3回連続+0.75%「利上げ」は前代未聞だったが、それでも「損」が兆円単位になる前に先物でもスワップでも手は打てたはず

 「これは相場が行き過ぎてます。少し待ちましょう」

 こんな議論が会議で踊っていたのだろう。下手をすると2022年にウォール街が「金利@2%運動」「@3%運動」株価維持を狙って金利が@2~3%でピークを打つという宣伝)を起こした時に ”ナンピン買い” に動いたのかも。  米国債 "逆イールド" の検証。|損切丸 (note.com) がきちんと為されていなかったのだろう(「損切丸」を継続的に読んでいてくれれば…)

 とにかく「損切り」は "気楽" にするのが一番「こんなはずじゃない」「何とか損を取り返さなければ」は厳禁過剰に ”気持ち” が入ると客観的に判断出来なくなる。筆者も随分痛い思いをしたが、一旦「損切り」してみると「なんでこんなモノに拘っていたんだろう」と目が覚める

 アメリカではシリコンバレー銀行(SVB)やシグニチャーバンクなどの中堅行が吹き飛んだが、農中の1件もそれに近い。中堅行の1つや2つ軽く吹き飛ばす程の損失だ。外資系なら間違いなく金利関連のマネージングディレクター数名、下手をすればCEOの首が飛ぶ

 結局1兆2,000億円もの増資が "軽く" 決定されているが、これは巨大な ”モラルハザード” (倫理の欠如)に他ならない。バックにJA(農業共同組合)が付いている準・国営銀行だから「お金」は政府から出ているようなもの。つまり元は「税金」巨大な「票」を抱えているから可能な案件である

 筆者が何を言いたいのかというと、こんなんで日銀は+1~2%の「利上げ」に向かえるのか20年以上も「超低金利」に安住してしまったため、こちらも巨大な ”モラルハザード” が蔓延これ程「円安」が深刻化する中、2年で+0.5%しか「利上げ」を想定せずに「国債買入」が "札割れ" を起こすようでは先が思いやられる

 もっともこれを恰好の "言い訳" に日銀も「QT」(量的引締)≓「国債買入」減額に動きやすくなる銀行が応札しない以上オペを続ける必要はない。現在の「下限金額」↓ に十分落とせるし回数も月4回から減らせる

 まあこの辺が「日本金融村」の ”阿吽” の呼吸日銀と市中銀行が "札割れ" を演出した可能性もなきにしもあらずだが、仮にそうだとしてもJGBを中心とした金利ポートフォリオの管理が甘いのは事実。「利上げ」に動いても「円安」が止まらなかった時にどうするのか"低金利の王様" 日銀でさえも追い込まれれば2回連続+0.5%「利上げ」なんてことも起きうる。ターミナルレート(利上げの着地点)は最大@3%ぐらいに設定しておかないと米国債の時と同じ事が起きるだろう

 「新NISA」で毎月▼2,000~▼3,000億円も「円売り」が恒常的に起きる中、巨額のJGBは早晩国内だけで消化できなくなる♪「金利」を知らない子供達♪ には想像がつかないかもしれないが、金利上昇に伴って邦銀も血で血を洗う「預金獲得」競争が始まる。果たして現経営陣で対応出来るだろうか


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