見出し画像

「こんなの見たことない」 其の4 - 「逆オイルショック」? 原油価格が初の「マイナス価格」に。

 ”原油価格が史上初のマイナス価格に。WTIが@▼37.63ドル(安値)”

 ????原油を買ったらお金が貰えるってこと?

 「損切丸」で昨日(4/19)原油のことを書いたばかり(手前味噌になるが)勘が良いというか、何というか。またもや「こんなの見たことない」。ネット界隈も「逆オイルショック」とはうまく名付けたものだ(笑)。

 どういうことなのか? ここで先物の仕組みについて説明しておく必要があるだろう。

 現在WTI先物は5月限月の取引をしている。最終決済日である5月の第3水曜日には売り玉と買い玉は差金決済され、取引は次の6月限月に移行する。例えば価格下落ヘッジをしている業者などは、売り立ている先物を維持するために5月限月買い戻し+6月限月売りをする。

 ところがこの売り買いの建玉、同数とは限らない。例えば売り残の方が多い場合、トレーダーなどは買い戻しを迫られ価格が急騰しあたりする。この時存在感を発揮するのが現物業者、原油なら「メジャー」と呼ばれるエネルギー企業で、アメリカならNYダウにも選ばれているエクソン・モービルシェブロンがその代表格である。

 今回は何が起きたのか。5月限月で大量の買い残が残ってしまった。「原油価格は下がりすぎ」と判断したトレーダー、投資家が多かったのだろう。先物の買い手は最終決済日には「現物受取」するのがルールである。これはTOPIXなど株の先物も同じルールで、鉄やオレンジジュースなども同様。

 通常ならトレーダーが投げ売りしてきたところを「メジャー」が安く買いたたいてシメシメとなるところが今回異変が起きた。「メジャー」も売り手に回った貯蔵施設が一杯で現物を引き受けられないという。つまり*価格がマイナスになったのは「貯蔵施設の新設コストや維持費より安い」と判断したからだ。

 *1バレル≓170リットルなので、個人でも170リットル引き受ければ@▼14ドル(現在値)≓+1,500円ほど貰える勘定、100バレルなら+15万円。しかし現実には17,000リットルもの原油を置いておくのは物理的に困難。輸送費保管維持費も掛かる。卑近な例で言えば、バブル期に建てた越後湯沢のリゾートマンションがマイナス価格で売り出されているのに似ている。

 今回の出来事があぶり出した事実は、「金融資本主義」ではいかに「不要不急」のものを作り出しているか、ということ。一昔前、ユダヤを中心としたダイアモンド・シンジケートが価格維持のために余ったダイアをドーバー海峡に捨てていた、という話を聞いた事があるが、今回は海に捨てる代わりに価格がマイナスになったと言うこと「取引価格」は創られた「幻想」に過ぎない、ことが明らかになってしまった。

 さてマーケットへの影響であるが、NYダウの約5%を占める2社の株価が揃って▼4%強下落、シェア10%強のボーイングの株価も▼6%以上下げているが、NYダウ全体では▼2.4%に留まっている。日本でも大手商社株が軒並み▼2%強下げているが影響は限定的だ。

 原油価格下落→デフレの連想も働きそうだが、金利市場に至っては、国債市場を見る限りほとんど動いていない。「オイルショック」時に比べると、原油がマーケット全体に及ぼす影響力が低下しているためだろう。

$  FF- 2- 5- 10yr  13 Apr 2020(グラフ)

 今筆者が1番心配しているのはロシアだ。大きく原油収入に依存している財政構造のため、大きな痛手だろう。通貨ルーブルも2020年に入って売られ続けている。

ロシア・ルーブル

 筆者も「ロシア・デフォルト」→「LTCM破綻」(1998年)では大変な目にあったが、ああいう国なので「デフォルト」(債務不履行)など何とも思っていない「お金」に困るといつもそうだが、日本にも何か言ってくるかも。それどころかこれをきっかけに軍事行動まで起こす懸念さえある。

 @80円割れの円高が進んだ時にも思ったのだが、日本はこれをチャンスと捉え、国家備蓄で原油を思いっきり買ったらどうか今ならマイナス価格のおまけ付きだ。「コロナ後」にトイレットペーパーなどの「自給自足」体制に移行するなら原材料を安く仕込む絶好の機会である。ただ今回の危機対応を見ていても日本政府が「スピード感」に欠けるのは明らか。もたもた会議しているうちにマーケットは動いてしまうだろう...(とても残念)。

 他にも各国のエネルギー政策や産油国経済など幅広い分野に影響してきそうな原油価格の下落。「幻想」の代表格である株価指数ばかり追うよりも、もっとミクロな現実に目を向ける時期なのかもしれない。

 ある学者さんが語っていた:

 ”「コロナ後」はこれまでのように「消費刺激」のために「無駄に創られていた商品」が減り、「本当に必要なもの」に即した経済構造に転換する。” 

 「本当に必要なもの」には「自然環境」も入るという。「マイナス価格の原油」はその「号砲」なのかもしれない

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?