ドル円

今度はドル円がおかしい - 「リパトリ」でポジション総投げの状態へ。

 株、(金、ビットコイン)、金利、と来てついにドル円もおかしくなってきた。「FRB利下げ」を表立った理由にしたいようだが、本質は違う。前稿で触れたが、これは「リパトリ」(Repatriation)=他の資産の損失穴埋め+総リスクを減らすために他の資産を売ること、簡単に言えば「損切り」だ。標題のチャートを見ると典型的な「なだれ三羽烏」である。

なだれ三羽烏

 忘れた頃にやってきた「円安」。↓ を書いたのが2/10であるから、わずか20日ぐらいの間に5円も動いたことになる。その中でも解説したが、通貨オプション市場は大荒れだろう。みんな「ボラティリティの売り」=オプションを売ってオプション料を手に入れる。相場が動かない事に賭けた手口、に偏ったていたため、この急変動で「損切り」の嵐に見舞われている。業界内では「ボルマゲドン」なんて言っているらしいが...(不謹慎)。

 そしてもっと気になっているのが日本人による米国債買い。財務省発表の2月の「対外証券投資」(=居住者(日本人)が外国証券を売買したネットの金額)を見ると4兆円も買い越しており、そのほとんどが米国の中長期国債↓ これが 忘れた頃にやってきた「円安」の原動力 だったようだ。

対外証券投資

 この点気をつけなければいけないのは、従来日本の金融機関(銀行、生保、年金etc.)の外債投資は為替リスクを負わない、いわゆる「ヘッジ付き外債」が主力だったことだ。本来はドル円相場に影響を及ぼさない

 ところが昨年ぐらいからこの「ヘッジ付き外債」に逆風が吹く。主力の米国債の金利が低下する一方*ドル資金の調達コストが高止まりし、利鞘が稼げなくなってきたのだ。米国債の利回りと銀行間市場の金利の指標となるLIBOR(London Interbank Offered Rate、ロンドン市場午前11時に銀行が「最優良先」に提示するドル短期貸出金利)が逆転してしまった。例えば米国債10年@1.07%を買ってもドルの調達コストは3か月@1.46%だから、▼0.39%の逆ざやになってしまう。これでは投資できない。

 ちなみに今日(3/2)の東京市場のオープニングで米国債が急伸、金利が更に低下している。ゴールドマンなどがレポートを出した影響もあるかもしれないが、FRBによる▼0.50%の利下げはほぼ織り込んでしまった

画像5

ドルLIBOR

 日本の金融機関はドルを十分に持っていないので、手持ちの円をドルに替えて外債投資など大きな投資案件に使う。そのための市場が通貨スワップ市場。短期の調達は主に為替の直先市場(FX Fowardともいう)で行い、3か月もしくは6か月のファンディングが主流だ。円を受け取ってドルを供給する相手方はドルを潤沢に持つ欧米銀行。①ドル調達の金額が大きくなる②日本の金融機関の信用状態が悪化する、等の時は「上乗せ金利」が大きくなる傾向がある。

 銀行の組織というのは大きな所ほど硬直的で融通が利かない。部署が為替、債券、株式などに分かれており、毎年度「予算」という形で収益の「ノルマ」が課される。外債の部署にも当然「予算」が張られる訳だが、ほとんどの場合「前年並み+α」で、市場の変化などは考慮されないことが多い

 「ヘッジ付き外債が逆鞘です」、なんて言い訳は通らない。そうすると外債部署は「ノルマ」達成のために「外債」で何とかしなければならない。その結果従来の通貨スワップを使う手法を捨て、ドル円の為替リスクを負って米国債を買う、という暴挙に出た。彼らは為替は専門外である。こぞって買っている間はドル円が上がっていいかもしれないが、一旦こういう相場になると「総投げ」になることが多い。4兆円の「損切り」が始まっているとすると、ちょっと恐ろしい。

 おまけに取って置きのポートフォリオである「株」もボロボロ。3月期末に決算に向け時間がないのに「益出し」などの見通しは全く立たない。**「予算」の達成はほぼ不可能だろう。

 **日本の銀行には「3比較」という変な文化がある。「他行比較」「他店比較」「他地域比較」(だったかな?)。とにかく全て他の銀行や他の店との比較で判断する。何兆円損をしても「他行」も損していればOKという間違った風潮で、よく損の言い訳に使われていた。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という話をロンドンの同僚にしたら鼻で笑われてしまった。

 今朝方(3/2)、黒田日銀総裁が発表した談話は「ETF買増し示唆」と受けとめられ、ドル円も日経平均も何とか踏みとどまっている。だが所詮対処療法。3月もほとんど経済活動が停滞するのは確実で、どのくらいの経済的損失が出るのか見通しが立たない。日銀が何かやっても「危ないところ」にはお金は回らない状況が続くので、依然大型の経営破綻などが心配だ。

 ロンドンでこういう時よく言われていた言葉を思い出す:

 「 Helmets On ! 」




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