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「逆イールド」が奪う「銀行」の体力 - 「これ以上金利上昇に耐えられない」 ≓「過剰流動性」の "禁断症状"

 前稿.「金利」が低下したのに「ナスダック」が売られた - "慌てず勇気を持って挑む" 2024年|損切丸 (note.com) でも触れたが、突如始まった "不可思議な米国債のラリー" 。発端はオフィスビル等商業不動産投資で失敗したNYバンコープ(NYCB)の経営危機だろう

 直接的予兆としてあったのがシェアオフィス " WeWork" の経営危機。日本でもSBが出資して兆単位の損失が出たが「リモートワーク」需要の過大な見積りが暗転。利用客が激減してビルはガラガラ

 昨年来商業用不動産のリスクについてはドイツイギリスアメリカ等を中心に指摘されてきた。ある推計によると▼1兆ドルもの損失が出る懸念があるという。問題はこれに銀行が多額の融資を突っ込んできたことだ

 どうしてそんなに貸し込んだのか?

 日本の「バブル」もそうだったが、銀行も相応の「リスク」は認識しつつも一種の ”ブーム” になっていて止められなかった。そしてより根源的問題は銀行の利益が2022年以降圧迫されてきたことだ

 そこに大きな影響を及ぼしたのが強烈な「逆イールド」

 銀行で融資担当をした方は実感できると思うが、仮に住宅ローンの金利が中央銀行の政策金利を下回っていたらどうなるか。例えばアメリカで貸出金利が@3.25%なのにFRBの政策金利が@5.25%なら▼2%の「逆鞘」1,000億円の貸出で年間▼20億円も "足" が出てしまう

 「損」を回避する方法はある。5年@3.25%の貸出を同期間の市場金利@3%で調達すればとりあえず+0.25%の利益は確保できる、e.g. 1,000億円×0.25%=年間+2.5億円。だがそんな薄い「利鞘」では銀行員の高給は維持できない銀行の利益の根幹は「長短金利差」であり、理想は貸出@2%で日本のように政策金利が@0%の「順イールド」。それなら寝ていても+2%儲かる(1,000億円で年間+20億円)

 ところが欧米はFRB+ECBによる史上最大の強烈な「利上げ」でこの2年間ずっと「逆イールド」銀行の利益を圧迫し続けた。結局これが無理な米国債投資などによってシリコンバレー銀行やシグネチャーバンク等中堅銀行の破綻に繋がった。潰れなかった大手行でも利益の圧迫は「リストラ」の嵐となって現れ、多くの銀行員が業界を去る羽目になった

 米国債を含め国債市場の主要プレーヤーは「銀行」。つまり米国債市場の「逆イールド」は米銀の「経営が苦しい」という "叫び" であり、悪く言えばFRBに対する ”恫喝”2022年前半に「ターミナルレート」(政策金利の到達点)が@2%~3%であるという ”偽りの逆イールド” は銀行界の抗議行動でもあったが「インフレ」を甘く見すぎた結果 "想定外” じゃない。ー 「逆イールド」から「大幅利上げ」への逆噴射?|損切丸 (note.com)

 そうなると銀行はどういう投資行動に出るか。そう、「ハイリスク」を承知で「ハイイールド」(高金利)に向かう。それが今回の商業不動産投資への傾斜だ。破綻したシグネチャーバンクの預金を引き受けたのがNYCBというのが何とも皮肉だが、今回の経営危機はそれが表面化したということ。苦しいと危ないものに手が出てしまうのは個人も企業も一緒

 日本ではあおぞら銀が同様の状況に陥り株価が急落(  標題グラフ)そもそも1957年に長期信用銀行法に基づき設立された「日本不動産銀行」が母体である意味「本業」なのだが、こちらは日銀による「超低金利政策」というオマケ付き。「お金」が余って「ハイイールド」に手が出てしまうのは地銀なども同じ。だが今回は傾斜が過ぎた。「高配当株」で有名な銘柄だっただけに来期から突然「無配」のショックは大きく投げ売りが出た

 まあこれも株式投資の一種のリスクとも言えるが、今回の「逆イールド」の再現、どうも2022年とは様相が違う。その理由は:

 ①FRB、ECBの政策金利が既に4~5%に達している
 ②「CPI」「インフレ」にピーク感が出てきた
 ③不良債権問題が噴出しつつある

 FRB、ECB、日銀が「利上げ」「テーパリング」(Tapering、語源:医療用語の ”薬抜き” )に向かう中、悩ましいのは拙速な金融緩和転換は 燻る「インフレ」の ”種火” 。|損切丸 (note.com) になってしまう点。そもそも不良債権問題に対し「利下げ」は時間を稼ぐ政策に過ぎず本来有効ではない「損切り」等、量的アプローチ以外解決法はない

 今回の "不可思議な米国債のラリー" は「過剰流動性」中毒の患者(銀行)が起こした "禁断症状" ≓「これ以上金利上昇に耐えられない」2008年のリーマンショック以降散々見てきたが ”薬抜き” は容易ではない。「不良債権」と言えばお隣の「巨大な灰色のサイ」も暴れ始めている

 大統領選挙を控え「株価維持」は2024年FRBの至上命題でもあり一体どう対処するのか。ECBも「利下げ」に前のめりだし日銀がたかだか「マイナス金利解除」にあれ程慎重なのも無理はない。それ程現在の「金利」は様々な要素を内包している

 ただ1つ言えるのは、皮肉にもこの20年「過剰流動性」を謳歌できなかった日本では ”中毒患者” も「不良債権」も圧倒的に少ない。その点からも海外から日本株に「投資」が殺到するのは合理的と言える。FRB、ECBに比べて日銀の方が動きやすいのは事実で、だからこそ 続・「理想」と「現実」- 「過剰流動性」の "アンカー" 「日銀」|損切丸 (note.com) 2024年相場は「円」が鍵を握ることになる

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