ヒコーキを止めたい。
「ウチ、航空管制官になりたい」
放課後、バスターミナルのベンチで、コーラ味のチュッパチャプスを舐めていたユカリちゃんが言った。
「ウチね、航空管制官になって、ヒコーキ止める。アメリカ行きのヒコーキ」
ユカリちゃんは「ウチね」と「なんかね」を頻発するいつもの話し方で、唐突な発言の理由を説明しはじめた。長い話だった。空の薄水色が、藍色に変わるころまで続いたその話は、つまりこういうことだった。ユカリちゃんは、アプリでゴトウさんというおじさんと知り合って、寝た。いちど寝て、好きになった。でも会えなくなった。アメリカに転勤する。嫁と娘連れて。と、ゴトウさんが言ったからだ。
ユカリちゃんは、ぜんぶ信じている。でも、気づいてもいる。泣き出したユカリちゃんの手を握りながら、信じることと気づいていることとは別なんだと、私は初めて知った。あれからずっと、飛行機を見るたび、コーラ味の匂いと青色の包み紙を必ず思い出す。