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どうしてベンチ、どうしてあの形なのか

 オープンデパート朝市は、すべて座席はベンチを採用しています。これは遠隔地での大型イベントから地元での朝市に営業スタイルを変更したタイミングですべて切り換えたように記憶しています。

 なぜ個別のイスではなくベンチなのかというと、単独のイスではなくベンチにすることによって対話が発生しやすいからですね。

 ベンチしかないと、1人で訪ねてきた人は誰かと隣り合って座る必要があります。これが対話を生む。サイズも絶妙に調整してあり、ムリしたら4人座れる、3人でちょうど、2人だとゆったり。そういえば1人だと寝ることができるんだよね。そういえばかつて昼のイベントでお酒を出してたとき、酔っ払って昼寝しちゃってる人がいたな。このへんがだいじなんだ。圧倒的なフレキシビリティ。

 若い人は見たことがないかもしれないけれど、おれが子どものころ、国鉄(JR)の駅にあるイスってベンチだったんですよね。駅前の広場や公園にあるイスもみんなベンチだった。サラリーマンが昼休みに寝転がることもできたし、ホームレスのおっちゃんも寝てたな。

 ホームや公園のベンチにひじかけがついたあたりから、日本の世の中は加速度的にギスギスしだしたような気がします。

 話を戻すと、ベンチは大勢で分けあうことが宿命づけられた設備です。見知らぬ人どうしの会話の起点を作るんです。これは、パラパラとイスを置いていると起きない利点です。

 イベント会場の座席は、できるだけたくさんの来場者がすわれるとか、設営の利便性だとか、いろんな要素が必要になります。少しでも省スペースで出し入れが簡単な座席のほうが主催者の負担にはなりません。

 しかしそれはそのつど考えていけばいい。いちばんだいじなのはなにか。オープンデパートの核心部をこのベンチは担っています。

 現代日本人って変わってまして、知らない人と何かを分けあうのが異常にヘタクソですし、見知らぬ他人に話しかける頻度がとても低い。外国旅行に行くとエレベータや街角で知らない人に話しかけられることがひじょうに多いのに気づくとおもいます。日本人はこれが異様にヘタクソになってしまった。

 ところが日本人とはいえ、そこにある座席がベンチだと分かると、赤の他人が横に座ってもなんとも言わないんですね。いっしょに腰掛けた人が、お互いを無視しあうのではなく、なにかしらのきっかけで話し始めることがあります。そのベースづくりをしているのがこのベンチなんですね。

 人と人の境界(バリア)を溶かす。そういう特殊機能をベンチは持っているんです。

 見た目はゆるいけど、じつは「コミュニケーション誘発装置」というかなり重要な任務を帯びている道具なんですね。こういう「ベンチの意味」は、突き詰めていくとオープンデパートの核心部に触れるところです。会場に来たらそんな意味でベンチを観察してみてください。

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