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朝市の運搬仕事の勘どころ

□運搬は悪である

 □運搬はゼロ化せよ

 運搬はそれじたい何の価値も生まない単なるコストである。最小化を目指すこと。朝市の目的は人と人の接点を増やすことだ。それ以外の準備や撤収は労力が少ないほうがいい。一瞬で会場ができるような手法を作る。そのためには重機でも政治力でも魔法でもなんでも使ってよい。

□時短ではなく労力最小をめざす

 □動線設計は設営・撤収効率をもっとも大きく左右する

 会場の動線設計は会場設計のもっとも重要な要素である。イベントの集客や盛り上げが成功しようとも、物流・設営・撤収にムリがあればそのイベントは結局長続きしない。華やかな面のみに注目することは、イベントを「やらないよりはマシだった」ていどの価値におとしめ未来を失わせることになる。いい製品は作るがまったくもうからずに消えていく会社のダメ経営と同じだ。

 □流れるように一筆書き動線をつくる

 会場の搬入動線は一筆書きで作る。動線と動線が交錯しないように。安全のためにも重要である。うまく作られた動線は効率的なだけではなく「そもそも事故が起こりようがない」ようにできている。「みんなで気をつける」「配慮する」などの精神論に逃げない。

 □ボトルネックを見つける

 ボトルネックとは人やモノの流れがとどこおる場所である。物流の停滞はすべてボトルネックがきっかけで起きる。会場のどこに狭い場所があるか、どこに停滞が起きるかを事前にとらえておく。目で見て明らかに狭い箇所があれば分かりやすいが、会場にクルマや人、出店者のテントが入ることによって一時的に起きるボトルネックもある。また大きなボトルネックを解消すると、より小さい中小のボトルネックがその会場の物流スピードを規定する。

 □接点をカイゼンする

 問題を見つける方法に「接点法」がある(岡本篤の考案)。「接点、接点」といいながら会場を見ると、問題を見つけやすいというものである。世の中の問題のほとんどは「接点」で起きる。たとえばつまづきやすい段差はコンクリートとアスファルトの接点に生じ、会場と外部との接点(出入口)付近で交通事故が発生する。自動車と台車の接点で荷物の乗せ替え作業が発生し、台車の重さは地面と車輪との接点で路面抵抗として発生する。接点をスムーズにすると物流が改善する。

 □それは何人でやるべき仕事か

 作業を始めるとき、その場のマネジャー(これをハッキリさせる共通意識が根本的にだいじ。リーダーとの違いを認識する)はその作業を何人で何分で終わらせるかを読む。そして必要な人員のみをその場に集めて作業をスタートする。自然発生的な仕事でマネジャーがいないときは率先して自分がやる。一歩踏み出す(=リーダーシップ)。この小さな勇気を各々が持てるかどうかで物流は変わる。

 □些細な状況の変化に気づく

 たとえばトラックからの荷下ろしという単純な作業でも、その進捗によって荷姿の全体像が代わり必要な人員数は変わる。トラックの荷台に満載された荷物を下ろしはじめてしばらくは荷台のまわりに群がって下ろせばいいが、荷物が減って荷台に上がる必要が出てくると動線が長くなり、必要人員と道具も変わるのである。そこで「もう1名人員をください」「台車を持って来て」と変化に対応する。

 □空運搬(歩きまわり)の削減

 朝市会場でもっともよく発生しひじょうに害悪が大きいのが空運搬である。空運搬とは朝市ではおもに歩行のムダだ。たとえばクギを1本打ちたいときにハンマー1本を取りに行くため往復して100mを歩くなどという完全なるムダのことである。軽快な運営のためには、空運搬をなくし歩行距離を減らすのは重要な視点となる。朝市のカイゼン活動のなかでも、万歩計というシンプルな計器で数値化できるのがおもしろい点だ。

 □勇気を持って手を止め、変え続ける

 「この作業はこれでいいのだろうか?」という疑問(たいてい「ささやかな違和感」として感ぜられる)が心にきざしたら、その場で手を止めて作業を遅らせても考えなければいけない。カイゼン力は現場で考えて実行することでしか向上しない。作業をとりあえず始め、考えることなしにそのまま最後まで終わらせることは「ありえない」。仕事は実行中に「必ず変える」と意気込んでおこなうこと。

 □リーダーシップを発揮してもらう(楽しんで変えてもらう)

 リーダーシップはいわゆる「リーダー」だけの仕事ではない。全員の仕事だ。自分がこの荷役作業をどう変えられるかを考え、その場でリーダーシップ(一歩を踏み出す)を取って変化を生む。作業をまとめるマネジャーは各スタッフが本来発揮できるリーダーシップをより高頻度で発露させる手腕が問われる。

 □重さ・高さ・速さ──危険の3要素

 すべての作業は、暗黙の前提である安全を確保して始めなければならない。労務管理的な意味での低レベルな安全はもちろんだが、小さなヒヤリハットが大量に起きるのがイベントの場である。異形物を大量に扱い、開放空間でおこなうことが多いため来客が危険物に容易にアクセスできもする。ガソリンなどのわかりやすい危険物以外で運搬の安全を確保するための着眼点としては、1重さ(質量エネルギーが高いもの)、2高さ(位置エネルギーが高いもの)、3速さ(スピードのあるもの)がある。たとえば加古川の朝市でよく発生するのがキャスター付きパレットに大量のテーブル天板を乗せてトラックにテールゲートリフトで挙上するシーンである。これは1人ではとうてい動かせない重量物(数百キロ)を動き出しやすいキャスターに乗せて、ユラユラと不安定な状態で位置エネルギーを上げるという超危険作業であることにきづいているか。

 □重労働を軽作業の連続に変えていく

 重労働をなくし、軽い作業の連続にすることによって、それぞれの負担が少なくなる。また女性や子どもを含めた大人数で仕事を分担することができることになり、参加者の可能性が広げられる。小さな負担で行える作業は速度を上げることができるため、リズムが生まれやすい。リズムが生まれると同じ作業でも圧倒的にラクに楽しく完了することができる。

 □作業標準を決める

 作業標準とは、たとえば「テーブル天板の手運搬は1回に2枚」などその作業を規定していくことである。いっぺんにやたらに重い荷物を運ぼうとする人間が力自慢の成人男性には多い。しかしそういう「いかにも力仕事」という光景を見せつけると、女性や子どもは「この作業は女子どもの作業ではない」と認識してその作業に参加しなくなる。やたらに頑張られるのはエゴであり全体の迷惑である。全体最適を目指す。

 □状態分析をして荷物の「活性示数」を上げる

活性示数0:バラ置き(たんに置かれている)
活性示数1:箱・袋に入っている(まとまっている)
活性示数2:パレットや台に乗っている(浮かせてあり台車などを入れられる)
活性示数3:手押し車・コンベアに乗っている(すぐに動かせる)
活性示数4:動いている

 □時間をかけるか、労力をかけるか

 「シンドイが時短になる」「シンドくないが時間がかかる」──このジレンマに陥ることが現場では多い。まずは「シンドくない」から始めるといい。時間の短縮を絶対目標にすると、労働の強度が高まってクソ力仕事が増え、カイゼンが進まなくなって現場が疲弊する。まずシンドさを下げ、その上で時間を短縮していく。少しくらい時間が伸びてもたいしてつらくない作業なら次からも人々は手伝ってくれる。そこから「ラクで時間も早い」につなげる。なぜなら朝市は1回で終わりではないから。ずっと続く街づくりだからだ。しかしスピーディにカイゼンしなくなると人は離れていくことを忘れずに。

 □バケツリレーとてんで運びはいつ使うか

 バケツリレーで運ぶか一人一人がてんでに運ぶか。基本的にはてんで運びが圧倒的に早いと覚えておくといい。休んでいる人がいなくなるからだ。ではバケツリレーはいつ使うのかというと、運搬通路に狭小部があって1人しか通過できない場合。または重量が重すぎたり運びにくかったりして(たとえば土嚢袋など)一人が長距離を運ぶとひじょうにシンドい場合である。バケツリレーは運ぶ/休むの繰り返しがリズミカルに起きるので疲れにくい。

□道具をあつらえる

 □道具は手運びをなくすためにある

 運搬仕事は人間の仕事ではなく車輪の仕事である。台車や手押し車、ソリ、フォークリフトやトラックに仕事をさせるためのツナギをしかたなく人間が果たす、と考える。「モノを人力で運んではいけない」と考えておくとよい。運搬道具の選択肢は豊かに持っておく。

 □自転車やスケボーの活用

 それでも空運搬は発生するし、移動の必要性は出る。移動を効率化するために人間自身が車輪に乗るのが自転車やスケボーである。現場での軽トラの活用も同様だ。自転車は近隣に買い出しに行くのもひじょうに役に立つ。自転車はイベント会場で活用されることが少ないが、じつは必須の小道具だ。e-BIKEなど爽快感のある乗り物は、めんどうな移動を喜びに変える力さえ持っている。移動を道具でHackせよ。

 □会場内の道具の整えかた

(1)不要物は持ち込まない(整理)
(2)所定の場所に集める(整頓1、一カ所とは限らない)
は当たり前の最低条件である。そこから
(3)なにがどこにあるか明示する(整頓2)
(4)見える化する
と進める。第4段階は「その日来たばかりの新人でも3秒以内にありかが分かる」が条件だ。

 □道具をいつくしむ(手入れの思想)

 管理者のいない共有道具は荒れがちになる。盗まれたり買い足されたりしやすい。すると必要なのか不要なのかあいまいになりさらに雑に扱われるようになる。基本的な考え方として自分が使う道具を自分でそろえ、手入れするのは当たり前である。共有道具はカネを出さなくていいからトクと考える人が多い。否、大きな間違いである。自分で選んだわけでもない道具はなんのための道具かわからずに使われることも多い。何年使ったからどれくらい摩耗しているだろう、など道具にたいする感覚や勘が育つこともない。ケチは大きなソンなのである。ヒトは道具を使うことでヒトになった。株式会社ムサシは道具屋である。不器用な人間、道具を知らぬ者はそれだけで価値が低い。

□道具の使い方

 □自動車の運転

 朝市会場のクルマはクルマではない。運搬用重機である。ひとたび朝市に使うときは、「自家用車の運転手」ではなく「運搬作業の根幹をになうプロの輸送機械オペレーター」として仕事をすることだ。そうすると会場内の超スロー運転原則や「クルマの荷台と荷物の距離を30mm(cmにあらず)まで詰める」などの厳密なルールの意味が分かってくるはずだ。自動車は大量の荷物運搬にひじょうに有用で、機械文明最大の利器である。会場内でも可能なかぎり自動車で運ぶ工夫をすると一気に作業量が軽減される。また現場の空き時間などにクルマの運転練習を常にすること。

 □荷物のまとめ方

 荷物は小さくまとめるのが基本である。農業用コンテナやありもののダンボール箱を、大物/小物・重量物/軽量物などまったく性質の違う物品にたいして無反省に使う例が多い。見た目だけ間に合わせると、一応まとまっているように見えるため再び考えはじめなくなる。見た目だけのカイゼンは考える機会を奪うのだ。農業用コンテナひとつを取ってみても、これは農作物を畑から搬出するための容器であるし、ありとあらゆるサイズや色がある。せっかくこの時代に生まれたのだ。この豊穣をちゃんと使いこなそう。その場その用品に本当にマッチした運搬容器とはなにか?運搬しやすい重量とサイズとは?トラックへ積みやすいか?収納場所での収まりはどうか?カイゼンを続ける。小さなカイゼンの積み重ねがついにクルマ1台分にも達し、大きな削減につながる。

 □容器と内容物の標準化

 運搬のための容器は標準化して種類を減らす。また標準化した容器にちゃんと収まる物品を調達する。また中に入れる最大重量を決める(=コンテナに最大重量を明記)。重い物品を入れるときはコンテナに隙間が残っても許容する。でないとコンテナを運ぶ作業中に突然重量物が現れて作業が停滞する。参加できる人が限られる。

 □台車のいろいろ

 キャスターのついた台車はさまざまなものが存在するが自作することもできるシンプルな道具である。これこそ「買うのではなく作る」ことも考える。荷台サイズや車輪の直径や素材などいくらでも工夫をしてDIYで1台から作れる。自分で作ってみるといかに自分がモノを考えていないかがつぶさに分かる。買うにしても平台車・押手付き・屋外用などさまざまなものがある。バッテリ式で自走するものも出てきた。

 □路面への対応──遠慮なくゼロからのスタートに戻ろう

 朝市会場の路面はさまざまである。台車を走らせたくとも、砂利道や芝生ではとりあえず台車に乗せて運ぶというごまかしは効かない。一面緑に覆われた芝生の公園は一見して人目を引く。しかし朝市の運営者としてはたいして魅力的ではない面も多い。たとえば自動車は入れないことがほとんどだし、入れても踏圧防止のシートを敷くなど別の手間が増える(夏に暑くて不快という根本的な大問題もある)。不勉強な役人やコンサルは見た目やイメージ先行で使う人のことを考えない公園を平気で作りがちで、こういうそもそもの設計(デザイン)が悪い会場は、道具や工夫で解決しようとしてもすぐに限界が来る。あまりに自治体などの管理者があまりに非協力的かつ不勉強(共に苦労をする仲間として不足)なら、ほかの会場に移ることもすぐに検討すること。少しずつカイゼンを繰り返したすえに別の会場に移るのはめんどうだが、それによって運営力は確実にパワーアップしていく。ちなみに兵庫県加古川市の周辺でムサシオープンデパート(MOD)朝市を開催した場所は思い出せるだけで11会場ある。

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