成長のハードルは自分がつくっている
株式会社ムサシの朝礼でみなさんにしたお話。パートタイマーのみなさんを重要な戦力として育ててきたので、いよいよ希望者は社員に登用を検討しますよ、というタイミングなのである。
田舎だって人口の半分は女性だ。優秀な人もたくさん埋もれている。田舎の小企業にとっては女性というのは最後の有能な人材プールだったりするのだが、これがなかなかたいへん。ジェンダーについての議論がたいへん盛んになったし、日本ではまずダイバーシティといえば女性の解放からなのだが、女性というのは自分で「女性というのはこういうもの」と思い込んでいることが多い。
こういうばあい、さいごは自分で檻をやぶってもらうしかないのだ。
★ 残念だった新型コロナ禍のできごと
経営者をやっていてさいきんいちばん残念だったことは、派遣社員で来ていたMさんというかたが新型コロナ騒ぎのさいちゅうに発熱し、その後けっきょく会社に来なくなってしまったことでした。
けっきょくさいわいに例の感染症じゃなかったので、「コロナじゃなくてよかったね」「身体が治ったら来てくださいね」という話をしていたんですが、けっきょく来ませんでした。そのまま姿を見せずに退職。
本心をきいたわけではないけれど、おそらく彼女はこういうふうに考えたんでしょう。入ったばかりの会社でコロナ禍のさなかに熱を出して早引きし、そのまましばらく休んで迷惑をかけた。いまさらどのつらさげて出社できようか。ひょっとすると風当たりが強くなるかもしれない──そんなところじゃないか。
この件でなにが残念だったかというと、この会社は彼女に安心できる場所を与えることができなかったということです。
この会社はなんのためにあるかというと、みなさんが安心してチャレンジして失敗する場所です。自分からチャレンジするから成長するのです。「安心していられる場所」じゃなくて失敗したらいびられる、とかそんな場所でチャレンジもイノベーションも始まるわけはありません。
5S活動なんて失敗のかたまりでしょう?たとえば棚をあっちからこっちに動かしてみました。すると使い勝手がイマイチだったから元に戻しました。これは失敗ですよね。でもそんなことどうでもいいんです。ナイスチャレンジ。やってみて元に戻したということは、手間をいとわず2回も会社に変化を起こしたということです。そこから学んでまた新しい進歩をすればいいし、その過程で人間は成長していく。
失敗や弱ったことがおきたら、会社はその成員を守るべきだと考えています。よし新型コロナだったとしてもちょっと会社を休めばいいことで、それでつぶれたりはしません。しかしMさんにとってはこの場所はそういう場所だということは伝わっていなかったということです。だからやめた。
残るみなさんに強調しておきたいのは、ここは安心できる場所であるということ。目標や目的はありますから、いろいろ厳しいことを言うことはあります。しかしベースとしてはこの会社は安心してチャレンジをする場所です。
★ 過去を振り返れば勇気がでる
いまパートタイマーのみなさんのうち、社員化にむけて腹を決めてくれている人もいるかと思いますが、決まっていない人もいるかもしれません。
なぜか「社員になる」というとえらく尻込みするもののようで、わたしもこれまでいろんな場所で「パートも社員も変わりません」と説明してはきたんですが、分かってくれない人がやっぱりいる。
早いはなしがビビっている。
これはなぜかというと「社員とパートの間には壁がある」とみなさん自身が思い込んでいるからなんですね。みなさん結婚や出産の前は正社員として働いていた人もおおいのに、パートタイマーとして働きはじめるとなぜか「社員になるとたいへんそう」とかいう理由でハードルを超えるのを怖がります。
そういうときは過去を振り返ってください。わたしが経営者になったとき、つまり5年半前ですが、このときのこの会社はどんなようすだったか。
駐車場にはたくさんゴミが落ちていました。何十という数ですので拾っても拾いきれなかった。それがいまはほとんど落ちていない。倉庫はどうだったか。奥まで通路もなくぎゅうぎゅう詰めにパレットが詰め込まれていて、「あの奥のパレットはどうやって出すんですか」と聞いたら「ひとつずつ手前のパレットを動かすんです」というお答えでした。いまじゃありえませんが、当時はそれが普通だったわけです。いまみなさんが着ているような華やかなエプロンもなかったし、そもそも服装も自由じゃありませんでした。「5年後、この会社は週に3日残業がなくなり1730時で完全に業務が終わる」なんて夢にも思ってなかったはずです。
5年半前からどれほど成長したか。自分たちの部署、自分の仕事の質を振り返ってみれば火を見るより明らかですよね。とんでもない成長ぶりですよ。全体として別の会社みたいになっちゃった。
つまり、じつはそれほどの能力がみなさんにはあったのですが、みんなそんなことができるとは思っていなかった。
モーゼの伝説があるじゃないですか。エジプトからイスラエルに人々を連れて脱出するとちゅう、奇跡が起きて海が割れてみんな渡ることができた。あの話は、じつはモーゼは渡れることを知ってたんじゃないかと思うんですね。みんなは「海だー、こりゃ渡れねえ!」と騒いだわけですが、じつはモーゼはたいして深くないことを知っていた。
だからみんなを率いて渡った。そしたら「あいつは偉大なリーダーだ」ということになった。モーゼはそもそも「そこは渡れる」ということを知っていただけで、渡れないと勝手に思い込んでいたのは人々のほうだった。(※)
みなさんが偉大な能力を持っていることをわたしは信じています。というか、知っています。
信じるも信じないも、それは過去5年半にみなさんが自分自身で証明したわけです。自分自身で証明しておきながら、今なおみなさんは社員になるとか、会議で発言がなかなかできないとか、そのていどの話ですらけっこう尻込みしていることがある。
自信がなくなったら過去なしとげてきたことをつぶさに振り返ってみてください。どれだけみなさんは能力を持っていて、会社をよくしてきたかを。そうすればチャレンジする気力がわいてくると思います。
(※)モーゼの出エジプトがじっさいにそういう話かどうかはぜんぜん知らずに書いてます。
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