見出し画像

極彩色はその網膜に届かない

中学2年生の時、Fは母と弟と暮らしていた。

父は幼い頃に他界し、兄は東京で某ビジュアル系バンドのギターをしており、それなりに名前が知られていた。

学校帰りにFの家についていくと家には誰もおらず、僕らはFの部屋で音楽を聴いたり、服の雑誌を読んだり、Fがアコギを弾くのを眺めたりした。

夕方になるとFの母が帰ってきて、「こんにちは」と感じのよい挨拶をしてくれた。僕も背筋を正して挨拶をする。

Fの家は家族関係がそれなりに良好で、時々Fと母が冗談を言い合っているのを見た。それが僕にはなんとなく嬉しかった。

なぜなら、漠然と「世の中にはこのようにして、それなりに言葉が通じ合う家族もいるのだ」という例を示してくれているような気がしたからだ。

ここから先は

1,741字

¥ 250

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

いただいたサポートは、音源作りの費用とツアー資金に使わせていただきます。そしてたまにスタッフにおいしい焼肉をごちそうしたいです。