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2023年J1第7節横浜F・マリノス-横浜FC「Fの焦点が合わない」

なぜ横浜ダービーは盛り上がらないのか

後ろ向きだった。サポーターが?選手が?いや、クラブが。アウェイゴール裏の座席に座った方ならわかるだろう。試合中、記録用にカメラをゴール裏に向けたまま、試合内容とは関係なくクラブスタッフはゴール裏を逐次確認している。まるでこのゲームに勝ちたいよりも、ゴール裏のサポーターが悪さをしないか監視することが優先されていたように感じる。そういったサポーターに寄り添っていない姿勢は横浜ダービーに本気でではないのでは、という疑念を抱かせるには十分だった。

なぜ横浜ダービーが盛り上がらないのかずっとその答えが出ないまま試合を迎えた。この週、ずっとそれを考えていた。どちらかといえば一方的に横浜側が、マリノス側を煽る感じでこの横浜ダービーは続いている。昔は、相手にすることでその存在を認める認めない的な話なのかと思っていたが今となってはそうでもなさそうだ。単純にマリノスとのダービーの争点は、横浜という場所で争うという点だけになってしまっている。
マリノスにとっては川崎が同じ神奈川で長年J1で鎬を削る相手位の感触で、横浜は歯牙にもかけていない。ダービーというにはほど遠い力関係と言われているようなものだ。実際は三ツ沢での試合は横浜の勝ち越しであるが、横浜国際でのゲームは圧倒的大差ばかりのゲームでマリノスサポーターにとっては、ダービーというレベルのものではないと考えている気がする。この日の横浜ダービーの観客数は、雨の影響もあったか25238名にとどまった。72000名を収容できる横浜国際を本拠地にしているクラブのゲームとしては収容率は30%程度。横浜ダービーと言われても、どうせ勝つだろう、雨だしと興味を持たれていない気がするのである。

もう一つは歴史の話。横浜FCは横浜フリューゲルスが解散・消滅したことで立ち上げたのであって、正当な後継クラブはどこなのかという議論を経ないまま、現実としてはFの名前を持っているのはマリノスではある。横浜もフリューゲルスの名前を取り戻すことは様々な経緯もあり、資金的にもそれを断念している。歴史的な因果関係は公式的には存在しないと思われても仕方ない。同じ地域にいる力差のあるクラブがダービーなんて名乗るなよ位のものだろう。かと言って、今フリューゲルスの名前を取り戻すことに執心している横浜のサポーターもそういないだろう。自分のような立ち上げ時から見ている古参ならともかく、ここ5年10年でサポーターになった方には、フリューゲルスの名前を取り戻そうと言われてもピンと来ないはずだ。何せ目の前にあるのは横浜FCなのだから。

かみ合わない

この空虚な感じは、今の横浜は横浜でサッカークラブを運営しているだけのクラブになってしまっていると私は感じている。福岡戦後、ルヴァンカップを挟み、そして横浜ダービーの次はホームゲーム。ダービーはアウェイ。積極的にアウェイゲームを呼びかける必要はないのかもしれないし、1週間近くで4つの告知は人の意識としては入ってきにくいから告知するタイミングも難しいだろう。それでもすべて同じバランスにする必要はないし、強弱はあってよい。クラブにとっては1/34か2/34くらいでも、サポーター的には1/1。この感覚の差が根底にある。
福岡戦後クラブのスタッフには「ルールが整備されて、チケットの販売、ホームゲームへの動員の呼びかけ、新グッズのリリース、スタジアムグルメの向上はしているが、今横浜らしさとはなんですか」と聞いてみたが、これだという回答はなかった。この横浜ダービーへのクラブの姿勢も、スタジアムでスタッフがずっとこっちを見ているのも何か通じるものがある。地域が同じダービーではあるが、ダービー感の薄れも感じている。

一方で、今年に入ってからの旗の規制とか服装の話があったから横浜のサポーターを遠ざけた、盛り上がらないという批判は当たらないと考えている。思い思いの旗が振れないと自分たちの応援する気持ちが失せてしまうような人間だったのか。普段あれだけ応援に恰好は関係ないと言っているのに規制が入ると遠ざけられたとか違和感がある。関係ないなら、どんなもの着てようが着させられていようが最高の後押しをすると思っていたのだが。

今の横浜ダービーは前提がかみ合っていない気がするのだ。ホームタウンが同じということ以外の因縁が小さい。横浜がYSCCがJ1に上がってきたとして戦ったとしても、それを果たして横浜ダービーと呼ぶだろうか。その位のお互いの認識の差がある気がする。

この辺りの議論も、時代を経て変化してきている。1999年当時プロ契約をしてもらえない選手たちの最後の受け皿になりつつ、一方では親会社がなく自分たちで様々なものを持ち寄りながら運営、経営していたのはたぶん今の世代には実感してもらえないだろう。寒川で客席がなくロープで仕切った中で試合を観戦したり、クラブからはマッサージ用のタオルや寮のエアコンがないと募集がかかりサポーターが提供して過ごしていた。今ではプロなんだからそれを用意するのが当たり前と言われてしまうが、そういうところから始まって良くも悪くもクラブは大きくなり、昨年ではJ2ではトップクラスの予算を誇るまでになった。だからこそ、ダービーの盛り上がりのなさが気になった。大きくなる過程でみんな何か大切なものを削ぎ落してきてませんかと。

かみ合った前半 噛み切られた後半

前半開始早々に、マリノス・山根にゴールを割られ厳しい戦いになるかと思ったが、そこから立て直して反撃開始。横浜としてはマリノスの裏のスペース攻略がキーポイントで、ここを近藤が担った。このゲームでも左サイドの坂本はやや孤立気味で、攻撃は右からがメインになる。林はマリノス・エウベルをよく抑えている。横浜は主に左サイドを攻略されるが、マリノスのプレスの裏にはスペースがありカプリーニがボールを受けて前を向ける回数も多い。右の相四つのような戦いができている。前線からのプレスは激しくペナルティエリア近くでコンタクトして捕まえようとしている。それをマリノスはかいくぐるがしつこくプレスバックして自陣で奪い返してボールを支配する。こうしたプレーがいつまで続けられるのかは心配で、前半のうちから彼らの後半の体力について気になっていたほどだった。前半でマリノスは渡辺を代えている。中盤で横浜がボールを握れているとマリノスの指揮官は感じたのだろう。横浜は動かなかったが。体力の管理は大丈夫なのか。

ゲームは意外な形で動く。後半開始早々、自陣低い位置で味方を探してルックアップしていた和田が後ろからプレスを受けてボールを奪われ、最後はマルコス・ジュニオールに決められてしまう。
1失点しても、まだまだ前半の勢いそのままにマリノス陣内に侵入する横浜だが、前半のそれとはやや異なった。マリノスが藤田を入れたことと、横浜の押し上げがないままボールを一発で蹴ることが増え、相手に回収されるケースが増えていった。後ろからセカンドボールを奪いに行く選手が減った。中盤でもディフェンスラインとスペースがあり、このあたりで中盤を変えないと崩されるだろうと思いながら見ていると、残念なことに失点を喫してしまう。
マリノス・山根がまさしく偽サイドバックのようにインサイドに侵入し、マルコス・ジュニオールにボールを預け、左のエウベルへ。エウベルが縦に突破すると、GK市川が出てきたのを見計らって、内側にボールを戻すとアンデルソン・ロペスがゴールに易々とゴールを許してしまった。後半17分。

これで気持ちが切れたのか、3点目は2点目からたったの5分後の後半22分。シュートの軌道が、ブロックに入った吉野に当たり市川が逆をとられてゴールを許した。大量失点のケースによくあるアンラッキーなゴールが寂寥感を招く。これでゲームは決まってしまった。

その後の4点目や5点目で言いたいこともあるが、ゲームとして決まっており横浜としては肩を落として受け入れるしかなかった。後半だけで5失点は、途中で集中力が切れたとは言え、あまりにもひどいものだった。

ヒアンが長谷川のスルーパスをトラップミスしてマリノスGK一森にキャッチされたのを見て絶望感だけが漂った。トラップも出来ない、出来ないならシュート打ってくれ。そんな悲痛な思いも叶うことなく試合は5-0の完敗。

矢印を自分に向ける

頭を切り替えるのが難しいのは横浜側だ。横浜ダービーとあおり続けた結果が返り討ちにあって惨敗。横浜国際ので横浜ダービー恒例の大敗を繰り返した。ただの敗戦ならともかく、何度戦っても4点差以上つけられての敗戦なのだから、モブキャラ的な負け方になってる。

同じ横浜のチーム同士の対決をダービーと呼べるものにしていくには、格の違いと結果の差から同じ土俵に立っていないのだから、結果で振り向かせるしかないだろう。とは言っても、これまでJ2への降格がないマリノスと、J1での自力残留がなくJ1での在籍経験も短い横浜FCがメンタル上同じ土俵に立つのは、成績面にしてもサポーターのメンタルの部分にしても集客にしてもまだ相当な距離がある。

横浜のサポーターがどれだけ自分たちの熱さや質を声高に叫んだところで、認めるかどうかは相手である。横浜ダービーでアウェイとは言え、その一角を売り切れにできないのが現状だ。それを受け入れないまま何を叫んでも負け犬の遠吠えにしかならない。こういうダービーでも逆転に持ってくることができて初めて最高の応援、サポートといえると思う。いまだ7試合で未勝利。勝てずに選手たちも矢印を自分たちに向けてどうすればいいか現実と戦っている。サポーターにもそれができるか。
革命を望むには歌を歌うだけではなく、ダービー以外でもその歌に共感する者を集める。その先に広がるのが、本当の横浜らしさなのだと思う。まだ全然足りていない。量より質と逃げているうちは、共感者は増えない。選挙も宗教も同じ。投票者や信者が如何に多いか。個人の思いが良いのであれば、多くの人が集まるだろう。横浜らしさはゴール裏でチャントを歌う者が勝手に定義するのも違う、クラブがこれだと絵を決めるのも違う。横浜らしさとは何かと考えさせられたお互いの視線がぶつからない横浜ダービーだった。


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