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BARで飲んだ最高の1杯の話。

怪しい古びたビルの小さな入り口。

コツコツと階段を登って、誰もが開けにくいと思うドアを開けると、

いつも顔なじみのバーテンさんが迎えてくれます。

はじめは背伸びして入っていたその扉を、BARの居心地の良さに味をしめた、私は、家に帰る気分で開きます。

こんばんわ。

バーテンさんにいうこともあれば。いつもの常連さんにいうこともある、馴染みの挨拶です。

はじめはおっかなびっくりだったのに、今では誰か知り合いにあってホッとする場所に変化している、そんな存在がBARでした。


そこにいる大人は、私にお酒のことだけじゃなく、

世の中の渡り方、世界の広さを教えてくれました。

お店は15畳もない空間だけれど、その話題の広さ・深さは、日常生活では得られない広大さがありました。

今日はBARに通いだして4年目の頃にあった、忘れられない1杯にまつわるお話をご紹介しましょう。

BARで飲んだ忘れられない1杯の話

その時の私はひどく疲れていました。

会社で、初めてクライアントの窓口を任されましたが、その案件は炎上案件で、毎日毎日が残業の嵐。

任された責任感で、やる気に満ちてはいましたが、

正直、体力が限界でした。

その日も、中央線高尾駅行きの最終電車に乗って、最寄りで降りようとしたのに、つい、乗り過ごして、隣駅にあるいつものBARに足が向いてました。

深夜12時を軽く超えた時間です。

明日もあるのだから、早く帰って寝ればいいのに、人と話してホッとしたくて、いつものお店に向かっていました。

いつものように、初めましての人が開けにくい扉を開いて、席に着きます。

話を聞いてもらいたくて、BARに来たのに、

「こんな遅くに珍しいね」というバーテンさんの言葉にも


「そうだね。忙しくてね。でも寄っちゃった」


そんなそっけない言葉しか口から出ません。

それほどに無自覚に疲れていました。

「優しい味の甘いのが飲みたい」という私のリクエストに答えて、

お酒を選んでくれるバーテンさん。


そのお酒の美味しさと、バーテンさんの放っておいてくれる温かさに甘えて、1人お酒を楽しんでいました。

明らかに疲れているのを気遣って優しい味を提供してくれるバーテンさん。

そんなプロの技を感じながら、いつもより杯数少なく、帰ろうとお会計をお願いしたら・・・・

お会計待ちの間に、オーナーが1杯プレゼントをくれました。


【フェルネット ブランカ】

これ飲んだら、元気になるから、とくれた1杯

初めて飲むお酒だけれど、ちゃんと私の口にも合う1杯でした。

いつも元気な私が、今日は特にやつれていたから、

””これ飲んで明日も頑張ってこい!””

ってことだったみたいです。

やたらと癖が強い、甘めの薬草酒のフェルネットブランカ。

いつも頑張り屋なオーナーの人並み以上の努力を、呆れながらに、話題にする中なのに、

そんなオーナーがくれた1杯は驚くほどに身体にしみました。


これほど感動的だった1杯もありません。

その温かさに、泣きそうになりながら、1杯をいただいて、帰りました。

恥ずかしくて、本人には言ったことがなかったけれど、

これほどありがたかった1杯はありません。


BARってお酒を提供する場所

というだけでなく、

大人が会社や業種、年代を超えて交われるコミュニティでもあります。

常連としてきていた、

あのおじさまがた、お姉様方は、元気にしているでしょうか。

いつも、あのBARに行けば、誰かしらいる

そんな空間が当たり前でしたが、ちょっと状況が変わると、

当たり前のように会えなくなってしまう。

そんな寂しさを思いつつ、

BARも大変な今だからこそ、飲みに言ってあげたいと思います。

BARとお客さんは持ちつ、持たれつつ。

素敵な人間関係が広がっています。




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