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部屋
首元に噛み付いた彼女がまだ離れない。
レポートをして、コーヒーを飲んで、友達の愚痴を聞いても離れない。
「おはようございます先生」
「やっぱりゆきちゃんはすごいなぁ」
「私、公務員めざそうかな」
言葉を吐き出す度に小さな痛みをかんじる
彼女の小さい歯が私の首筋にゆっくり沈んでいく
部屋の遮光カーテンからはぼんやりとした光だけが入り込む
私は光る壁になった窓から逃げられないことをしっている
「ありがとう、たすかったわ」
「やっぱり頼りになるなぁ」
「優秀やからいいなぁ」
言葉を受ける度に手を握る
短く乱雑に切られた爪を冷たい手のひらに沈みこませる
彼女はカタカタと奥歯を震わせながら頭を揺らした
頭と首だけしかない非力な彼女に
私はいつも逆らえなかった
ここにしかいられない
壁だらけの空間で
私はそのまま彼女に殺される
ゆっくり、ゆっくりと、死んだことも気づかないほどゆっくりと
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