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歳時記を旅する

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土生重次とその師系の主宰の句を足掛かりに、季語の現場を時空を超えて訪ねる旅のエッセイ。〔毎月投稿〕
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記事一覧

歳時記を旅する51〔薫風〕前*薫風や少々きしむ寺襖

土生 重次 (平成三年作、『素足』) お茶の世界の掛軸として使われることが多い禅語に「…

岡田耕
16時間前
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歳時記を旅する50〔薔薇〕後*夏霧の薄衣まとひ山椒薔薇

磯村 光生 (平成三十年、『花』)  サンショウバラは、富士箱根に分布するバラで、ハコネ…

岡田耕
10日前
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歳時記を旅する50〔薔薇〕中*蔓薔薇や端から埋まる駐車場 

佐野  聰 (平成六年作、『春日』)  この童話のバラは作者の妻コンスエロがモデルだと…

岡田耕
2週間前
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歳時記を旅する50〔薔薇〕前*ことごとく刺す意あらはに薔薇の棘

土生 重次 (昭和五十三年作、『歴巡』) 童話『星の王子さま』(サン=テグジュペリ 一…

岡田耕
3週間前
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歳時記を旅する49〔麗か〕中*うららけし窓で商ふ周旋屋 

佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  不動産仲介業者は江戸時代から存在した。土地取引には…

岡田耕
1か月前
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歳時記を旅する49〔麗か〕前*うららけし渡しの杭の舫ひ疵

土生 重次 (平成七年作、『刻』) 江戸時代から続く江戸川の「矢切の渡し」は、伊藤佐千夫の…

岡田耕
2か月前
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歳時記を旅する48〔雛(二)〕後*わだつみの風にたゆたひ吊し雛

磯村 光生 (平成十八年・十九年作、『千枚田』)  伊豆の稲取温泉に伝わる雛祭りには、古く江戸時代後期の頃より、娘の成長を願う母や祖母手作りの「つるし飾り」が飾られる風習があった。  百十の飾りにはそれぞれ謂れがあって、這えば立て、立てば歩めの親心を表す「這い子人形」をはじめ、厄が去るの「猿」、娘に虫がつかないように「唐辛子」など。 花のように美しくと「花」もあるが、避けられる花もある。「桜」は「散る」、南伊豆に多い椿も花ごと「落ちる」、と船の転覆を意味するからとい

歳時記を旅する48〔雛(二)〕中*雛壇の端に贔屓の洋人形 

 佐野  聰 (平成六年作、『春日』)  田山花袋『時は過ぎゆく』(大正五年)に、母親を亡…

岡田耕
2か月前
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歳時記を旅する48〔雛(二)〕前*昼も灯をともし駅舎の土雛

土生 重次 (昭和五十五年作、『歴巡』)  土雛の起源は京都伏見にある。  伏見人形は江戸…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する47〔浅春〕後*侘助てふ菓子のうす紅春浅し

磯村 光生 (平成五年作、『花扇』) 「和菓子は五感の芸術である」とは、虎屋十六代当主で…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する47〔浅春〕中*浅春や語尾曖昧に読経終ふ 

 佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  「浅春」は「二月ごろ、春になってもまだ寒く、春…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する47〔浅春〕前*浅春や埴輪の胸に鋲の乳

土生 重次 (平成七年作、『刻』) 古代遺物のうち、縄文時代に土で作られた人の形の焼…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する46〔左義長〕後*堪へ切れず達磨の転ぶどんどの火

磯村 光生 (俳句雑誌『風友』平成二十七年四月号) どんどの火には、厄病災難を避ける民間信…

岡田耕
4か月前
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歳時記を旅する46〔左義長〕中*左義長の炎の追ひ縋る注連の幣

 佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  左義長とは、三本の杖、竹、丸太などを三角形に組み立てた神の依代という説がある。  一月十四日の早朝に作られるさいとの内側には、正月の松飾り、注連縄、古雛、古い神棚などが持ち込まれ、その周囲に藁縄を巻いて、円錐状にして、頂点に若松の枝、幣束などが立てられる。これが神の依代である。塔の近くには道祖神の石像が部落から運ばれて安置されている。  さいとが燃え上がって倒れそうになると、頂上から四方に張られた縄を、その年の恵方に引っ張って倒す。