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最新リテールをUXデザイン視点でリサーチする[渋谷/ハラカド&Sakura Stage]


今回行く施設

原宿・表参道エリアの新たなランドマークとして文化の発信地となることを目指す『ハラカド』と、「働・遊・住」を兼ね備えた渋谷の新たなランドマーク『Shibuya Sakura Stage』の2店舗をめぐり、UXデザイン視点でフィールドリサーチします。

UXリサーチってなに?

デザインにはUIやプロダクト、空間やサービスなど様々な対象がありますが、基本的に人が”使う”ものが対象のデザイン分野では「User Experience(ユーザー体験)を向上させる」ことが目的の一つにあります。

UXを構成する要素


『UX(User Experience)』とは、様々な要素が絡み合って形成される”製品やサービスを使うときにユーザーが感じる全体的な体験”です。

それを設計するUXデザインとは、UIやプロダクト、空間やサービスなどのあらゆるユーザーとの接点をデザインすることで、意図した感情や印象をユーザーに与えるためのプロセスと定義したいと思います。

今回はUX手法のなかでも『フィールドリサーチ』を通じて、店舗設計が人にどんな体験・感情を与えているのかを体験します。

UXリサーチ手法

観察して、「その施設が何を狙い・目的としているのか」「それを実現するための方法」また、「良いと思ったUXやその理由」を分析したいと思います。

①ハラカド

『ハラカド』は、1960年代にトップクリエイターたちが集う文化創造の拠点だった「原宿セントラルアパート」の文化を継承し、さらに発展させていく新しい商業施設として2024年4月にオープンしました。

クラフト感あふれる内装や什器

まず入って感じたのが、従来の店舗ではあまりないクラフト感が強い内装や什器でした。
配管むき出しのスケルトン天井に独特の配置で蛍光灯がついてます。トイレのサインもマテリアル感強めです。

むき出しの天井。蛍光灯が斜めに配置されていて動きがある
建築素材をそのままつかったような什器
床材はむき出しなわけではなく、コンクリっぽいタイル?

調べてみたら、企画や内装監理、デザイン監修は乃村工藝社が担当しているようで、コンセプトに「個々の区画内に商環境意匠を織り交ぜ、連続性や一体感のある商環境デザイン」「テナントが入れ替わる際、スクラップ&ビルドを行わずに済む什器機構」などがあるようです。

共創するための場所であることを表現するために、一体感のあるクラフト感をだすというのはポイントですね。

「売る」よりも「人を集める」ための場所?

面白いのが、4Fにある『ハラッパ』という公園のようなパブリックスペース。様々なカタチの椅子や座れる場所や、ぼーっと眺められるインスタレーション作品があり、人々が休んだり話したりしていました。

4F ハラッパ。波打つモービルが天井に吊られている
フロアの真ん中にある草場。おしゃれな観葉植物ではなく、猫じゃらしのような原っぱに生えてそうな植栽でまとめてあり、ラフな雰囲気がある。
ハラッパについての説明。アイソメイラストが今っぽい
焚火のインスタレーション。ゆらゆらと中で影が動いている。赤く巨大な球体が緩やかな空間のアクセントになっている。

こういうスペースを設けること自体が珍しいですね。今ってどの商業施設でも公共スペースでも、休める場所が無くて「休みたいんだったら金払ってカフェにでも入りな!!!」的な雰囲気を感じますが、ハラッパがあることでハラカドは商業第一主義的な場所じゃないんだな、と感じました。

さらに、緑豊かな屋外テラスも見どころです。

ガラスに青空が反射して開放感があるテラス
壁面のグリーンの輪郭が際立ち、山のようにみえる
PCで仕事している人も。実は電源コードが結構あり、長居したい人にウェルカムな雰囲気。

ここまで見て、「植栽がSOLSOっぽいな」と思ったのですが、調べてみたらやはりSOLSOが屋上・ハラッパのランドスケープ設計・インドアグリーンデザインを担当していました。
植栽はオリーブやヤシの木が多く、ラタンの椅子と白い砂利によりリゾート的な雰囲気になっています。

オモカド(東急プラザ)や交差点が一望できる

屋上からは交差点の向かいにあるオモカドも見えます。景色が良くて、原宿にいるとは思えない心地のよさでした。
この屋上は米津玄師がイベントで使ったことでも有名です。文化の発信地としての使い方としてめちゃくちゃいいですね。

また、ハラッパや屋上以外にも、テナントも面白いものがありました。

デザイン事務所れもんらいふ

デザイン事務所が入っています。働いている人もいてめちゃくちゃオープンです。れもんらいふのWebサイトをみると、ハラカドに事務所を構えた意図が紹介されていました。

クライアント、クリエイター、お客様、すべての枠を外し、新しい何かを生み出すラボとしてれもんらいふは存在しようという試みです。デザインの依頼だけでなく、何でも相談いただける、私たちのオフィスにぜひ遊びにきてください。

一般客が訪れる商業施設に事務所を構えることで、多くの人に「デザイン事務所ってなんか面白そうだな」と興味持ってもらえるし、事務所の宣伝としても効果あるし、なによりハラカド側として「ハラカドはクリエイティブな場所だ」と印象付けられるメリットがあると感じました。
言葉でクリエイティブって言ってても、実際にクリエイターがその場にいなかったら説得力ないですもんね。

銭湯もありました。
昭和8年高円寺に創業した『小杉湯』という銭湯が出店しているようですが、店主の「やりたいことはビジネスではなく、文化そのものに価値があることを証明すること」という言葉からも、ハラカドがカルチャーを重視していることがわかります。

文化の発信地であるための、人が集まるUX

全体的な感想としては、ハラカドは「文化の発信地&交流点」であることを重視していて
①クラフト感が強い空間デザイン 
②リラックスして人々が交流したり休んだりできる場所がある、ゆとりのある施設設計
③共創拠点になるための、小売業に限定しないテナント募集と、それを魅せる工夫
が設計されていると感じました。

②Shibuya Sakura Stage

『Shibuya Sakura Stage』は、「最先端のデジタル空間から生い茂る緑まで。多彩な広場とテラスで、新しい交流や体験が生まれるまち。」をコンセプトにした、オフィス・商業施設・住宅などがつながる大規模複合施設です。
今回はその中でも、2024年7月にオープンした商業施設に注目して巡ります。

「売る」よりも「遊ぶ」ための場所

ゲームを起点としたインディークリエイターの聖地”を目指した渋谷のあそび場『404 Not Found』では、インディゲームの展示がされていました。後ろにはでかいスクリーンもあり、ワークショップや音楽ライブも開催されるようです。

インディゲームが展示されている。シンプルなミニゲームが多い。
Cafeではボードゲームも遊べる?買えるっぽい。

ただゲームを体験できるだけでなく、グッズやアナログゲームを売れるストアや、収録スタジオ、イベントで利用できるキッチンなどもあり、クリエイター達が活躍できる場となっているようです。

KATEでは、自分に合ったコスメを探せる仕組みが様々ありました。

KATEの世界観を伝える入口。巨大サイネージで映像が流れていて目を惹く
スマホを魔法陣にタップしカメラで顔を撮影すると、自分に合うアイシャドウを選んでくれる
ICON BOX : 顔を撮影するとアイカラー4色を選び、顔に合わせてメイク後のイメージも表示しれくてる。

「体験型店舗」が流行っているこの頃ですが、Sakura Stageに入っているテナントを見るにただ商品を試すだけでなく「楽しんで遊べるか」が体験の肝になっているように感じました。

サブカルはもはやサブじゃない

また、この日はVtuberのイベントが開催されていました。
Vtuber『さくらみこ』とSakura Stageのコラボイベントで、謎解きラリーやさくらみこオリジナル楽曲の展示がされています。これが集客になっているようで、平日にもかかわらず多くの人が集まっていました。

デカくてインパクトがある広告。シティPOPな渋谷っぽい衣装のイラストがかわいい
中央モニターで楽曲が流れている。曲が流れているとつい気になってしまう。学生からサラリーマンまで多くの人が集まる
Sakura Stageの一部エリアに謎々がある。小学生が親と謎解きをしていた。子供きっかけで親もVtuberを見たりするのだろうか…

ゲーム実況集団「高田村」の公式ショップ高田村交易所がありました。実況者たちのグッズやオブジェがあり、こういう世界もあるのか…と新鮮な気持ちになりました。

ゲーム実況集団「高田村」の公式ショップ。グッズや展示がある。

もはやサブカルチャーとして扱われていた”オタクコンテンツ”が、主流コンテンツになりつつあるなと思いました。

また、サブカルの中でも企業や組織がつくる商業色の強いコンテンツではなく、個人クリエイターや配信者・Vtuberによるコンテンツが多いことから、Sakura Stageは「クリエイターを育て発信する場所である」というコンセプトを感じました。

最先端を感じさせる屋外ランドスケープ?

屋外にはにぎわいSTAGEというスペースがあり、木を模したオブジェや撮影スポット?の「しぶS」があります。
正直個人的にはあんまりビビッと来なかったです。最先端感を重視するためにあえて樹木ではなくピクセル感のある木のオブジェにしたのは理解できるのですが、日々ここを通ったら見飽きそうだなと思いました。
「しぶS」も印象に残るものの、コンセプトやこの場所で人に何をさせたいのか?がよくわからなくて、ただ強いピンクが目に残るなという感想を抱きました。

人流や気象データなどを活用した演出によって365日異なる空間を演出するにぎわいSTAGE
映え?スポットの「しぶS」遠くから見ると曲線がSに見える

目指す姿やUX的な工夫が…わからない

全体的な感想としては、Sakura Stageは単なる施設ではなく、渋谷駅周辺の回遊性をあげ、住む&暮らす環境を作りながら、最先端を感じる文化やコンテンツで遊ぶこともできる、オールインワンな施設を目指していると感じました。
ただ、ぶっちゃけUX的な工夫はよくわかりませんでした。
一つ一つの店舗はユニークで、コンテンツも最先端で、ニッチな文化の発信地でありたいというコンセプトはわかるのですが、そのための「人を集めるためのUXの工夫」や「来た人になにを感じてもらいたいか」が、イマイチよくわからないというのが正直な感想です。

推測するに、
・Sakuraというテーマと施設コンセプトのつながりがわかりにくい
「Sakura」というテーマや桜色のコンセプトカラーは日本的だが、「最先端のデジタル空間から生い茂る緑まで。多彩な広場とテラスで、新しい交流や体験が生まれるまち。」というコンセプトとどう繋がるのかわからない。
Cool Japanを強調してインバウンド客を狙いたいのか?と思いきやそうでもないっぽい。
・テナントに一貫性がない
ニッチなサブカルのテナントもあれば、TUTAYAやスタバのような一般的な店舗もある。どんな客層にきてどんな体験をしてほしいのかがわからない。
などが原因だと思いました。

ハラカドもSakura Stageも東急不動産の施設で、それぞれにいいところがありますが、ハラカドのほうがセンスが良いと感じました。この違いはなんでしょうか。

まとめ

2つの施設を周りましたが、ユーザー目線で考えたときに、リアル店舗に期待することは「その場でしか味わえない唯一無二な体験」や「内装・フロア設計・サービスを通じて、一貫した世界観・コンセプトが感じられること」だと感じました。

買い物やコンテンツ発掘がオンラインで簡単にできる今、わざわざリアル店舗に赴くなら、五感で感じる空気感やにぎわい、足を運んで体験するに値する納得感や満足感が大切ですね。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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