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After the celebration 《Can you celebrate?な夜》第5話

 午後10時が迫って来ていた。私は電波時計の液晶画面を見つめ、数字が
22:00になるのを待っていた。そして数字は22:00を通り過ぎていった。
「終了!」「終了!」。隣室で男性が声を張り上げた。しかし、騒ぎが  すぐに収まる気配はなかった。
 物理学の世界には慣性の法則というものがあるが、人間の行動にもあて
はめてよいものかどうかは分からない。まあ、何事も急には止まらない。
 午後10時を過ぎても騒ぎをやめるつもりがないような様子なので、相手
の出方をちょっと伺ってみることにした。玄関から外に出て、隣室の玄関
の前に立った。相変わらずドアのポストには、『投函ご遠慮願います』の
シールが貼られたままだった。エントランスがオートロックだから、中
まで入り込んでチラシを投函していくことはまずない。だが、ガスや水道
の検針票や、管理会社からの連絡等は投函される。そのあたりのことまで
は考えていないのだろう。まあ考えていないからこそ、今騒いでいるの
だろうけれども。
(午後10時から・・・)というのは私が言い出したことではない。管理
会社の担当者が出した文章だ。また、そもそも午後10時からは、いっさい
大きな音を出してはいけないとも私は思っていない。その時点では(午後
10時から・・・)という取り決めが、建物全体にあったわけではない。
 そして私はインターホンの呼び鈴を押した。
ちょっと間を置いてから、男性の声で「はい。」という応答があった。
不意打ちを喰らって間の抜けたような声だった。
「10時ですよ。」
「はい。」
インターホンの奥で「下の階の人かな?。」という女性の声が聞こえた。
そのまま私は自室に戻った。
 それから私は、管理会社への連絡用文書を書き始めた。そのうちに隣室
は騒ぎモードから会話モードに移っていった。  
 午後11時前になって、客人2人が帰る気配がした。自室の玄関の前を
4人の足音が通過していった。しばらくしてから、私は玄関から出て外の
様子を覗った。駐車場にある隣室の車の前で、男女4人がなにやら話し込
んでいる様子だった。すぐに自室内に戻り、文書の続きを書いた。やがて
書き終わり、管理会社に送信してから風呂へはいった。今日のところは
一旦終わり、とその時は思った。

※After the celebration:(この題名の洋書が実在するようだ)

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