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人は笑いながらに怒り、怒りながらに泣いているのだ/劇作家・加藤真史さんの仕事

太田市在住、加藤真史さんが作・演出・音楽を手掛ける演劇/微熱少年vol.1『縁側アロハ』の公演が8/14・15太田市民会館にて行われる。公演チケットは以下から購入可能。

https://peatix.com/group/10593771

加藤さんとは知り合ってまだ1年に満たないのだが、前橋文学館で行われた「リーディングシアターvol.13 わたしはまだ踊らない」、演劇プロデュースとろんぷ・るいゆによる「2020 紙風船at前橋臨江閣公演」、そして先日公開となった前橋・白井屋ホテルを舞台とした演劇「まだその名を知らぬ冠を手に入れた」と、加藤さん作による演劇3つを撮影・編集した。8月の『縁側アロハ』についても撮影予定であり、先日zoom稽古の様子も見させていただいた。とにかく、加藤さんが書ける演劇の幅の広さと(「紙風船」は岸田國士による原作に加藤さんなりの一ひねりが加えられていた)、その精力的な活動には驚かされる。(「わたしはまだ踊らない」と「まだその名を知らぬ冠を手に入れた」については最後のリンクから全部を視聴できるのでぜひご覧いただきたい)


僕は演劇に対して、憧れに近い感覚がある。映画館もないが当然劇場もない環境で20歳を過ぎ、はじめて演劇の面白さを痛感したのは生の観劇ではなく、なんと深夜のテレビ放送。平田オリザさん主宰の青年団による「冒険王」を見た時だった。アジアとヨーロッパの重なる場所、イスタンブールの安宿に集まるバックパッカーたちのやりとりを描いたそれは、特にこれといったドラマティックな展開があるようでもなく、淡々とその1人1人の存在を見せて、人と人がただ出会うことの不思議のようなものを描いていた。映画では見ない語り方。革新的だった。そのあとはもちろん、いくつか生の舞台も見て、中之条町出身の村杉蝉之介さんを見に劇団大人計画の舞台を見に行ったこともあるし、一時期毎年中之条町で公演されていた羽原大介さん主宰の劇団昭和芸能舎の舞台を楽しみにしたりしていた。

演劇を撮影するようになったのは、それまで展示の撮影をしていた前橋文学館での仕事の延長で「わたしはまだ踊らない」を撮ることが決まってからであるが、加藤さんは初対面にして「表現したいことがふつふつと全身にみなぎっている男」という印象を受けた。物腰は柔らかく、「撮影方法は、お任せします」と言ってもらったが、その笑顔の奥に「あんた、どれだけ本気で表現してるんだ?」という鋭い眼光があるような気もした。実際、その劇の内容も、当時展示されていた萩原朔太郎の母・萩原葉子さんが文筆家として歩み始めるその瞬間を、実と虚を織り交ぜて力強く描く内容で、とても面白かった。それからは、加藤さんや、加藤さんの演劇仲間である中村ひろみさんから声をかけていただき、演劇の撮影が続いている。

「まだその名を知らぬ冠を手に入れた」は、コロナ過において身を粉にして働いている医療従事者に対し、表現で何かエールを送れないかという萩原朔美さん(前橋文学館館長)の提案のもと、演劇プロデュースとろんぷ・るいゆや前橋まちなかエージェンシー等が制作を引き受け、現在の医療現場と、萩原朔太郎の父であり医師であった萩原密蔵の時代、2つの時代を行き来する演劇を作り上げた。加藤さんはここでも、現在と明治の医療状況の情報を下敷きに、人ありきのオリジナル脚本を書きあげた(演出は荒井正人さん)。劇の人間味と、前橋で注目されるアートホテル・白井屋のスタイリッシュさが相まって、その場に居合わせた観客は(コロナ過ではあるが観客人数を絞って開催)不思議な時間を過ごしたに違いない。編集を終えて、コロナという怒りの矛先が見えにくいものに対峙した演者たちの、悲しみを滲ませながら絞るように出される怒りの言葉が印象的だった。

僕がなぜ演劇に憧れをもつかというと、演者と観客を隔てるものがなく、生でその感情を出すこと・受けることにより「再現不可能な1度きりの経験ができるから」という理由による(だから映像の記録はその残滓である、とすら思っている)。それは演劇にしかできないことであり、コロナによって最も窮地に追いやられている部分でもある。けれど、演劇人たちは黙り続けてはいない。

『縁側アロハ』の脚本には、加藤さんが意識しつづける映画監督・小津安二郎の面影を見ることができる。けれど、描かれているのは明らかに現在だ。その家族の在り方を、こんな状況下ではあるが、ぜひ生で観劇いただきたい。

「わたしはまだ踊らない」を見る前に見ると理解が深くなる前橋文学館「萩原葉子展」の展示記録
https://www.youtube.com/watch?v=MDem-GMQdp4

リーディングシアターvol.13 わたしはまだ踊らない
https://www.youtube.com/watch?v=jTbvpwRyhqY

まだその名を知らぬ冠を手に入れた
https://vimeo.com/552689122

追記:これはたまたまなのですが『縁側アロハ』にはなんと1996年版の「冒険王」(僕がテレビで見て演劇の凄さを知った)に出演されていた青年団の大竹直さんも出演します!

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