ICFコア・コンピテンシー8:クライアントの成長を促進する【英語動画まとめ】
こんにちは。すっかり時間が空いてしまって、いつの間にか年末が見えてきましたね… 。 ICFコア・コンピテンシー、最後の8番がずっと滞っていたのですが、今回やっと公開できました。
最近ICFのCredential Examに向けての勉強会に参加しているのですが、こちらのシリーズを学びの糧にしてくださっている方がいるのだなあと実感できて、嬉しい限りです。読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます!
前置きはこのくらいにして、早速内容に入っていきましょう。
このシリーズでは、国内で活躍するコーチ、コーチングをビジネスや生活に生かしたい方に向けて、英語の資料(論文、ブックレビュー、インタビュー、ウェビナーなど)を翻訳 / 要約し、日本語で掲載していきます。
今回はICFコア・コンピテンシーの解説動画の翻訳 / 要約の最終回。
コア・コンピテンシーは以下の4つのセクションに分かれていますが、今回紹介する「08. クライアントの成長を促進する」は、「D 学習と成長を育む」に含まれる唯一のコンピテンシーであるだけでなく、単体でセクションを作っているのもこのコンピテンシーだけなのです。
それだけ要素として重要であるとも言える今回のコンピテンシー。ぜひ内容を確認してみてくださいね。
全8回の解説動画は、こちらから視聴できます。
動画について
今回は同シリーズの8回目、Janet Harvey氏(MCC)の解説による"気づきを引き起こす Evokes Awareness"です。
以下、インタビュアーの質問と、Harvey氏の回答を要約してQA形式でまとめます。
今回は個人的に印象的な言葉がすごく多くて、途中から要約というよりも逐語訳的になっています。が、適宜割愛した部分もあるので、より客観的に全体をご覧になりたい方は、youtubeの自動生成翻訳で確認してみてください。
概要
Q:このコンピテンシーはどのようなものですか?
コーチングの目的を表現する際、よく「クライアントが行動を進めるための学びを深めること」という表現をしますが、今回のコア・コンピテンシー、つまり「D:学習と成長を育む」のセクション全体は、この表現の前半、「クライアントの行動の促進」についてのものです。
コーチングでは、クライアントが自己理解を深めたり、行動や人間関係を突き動かす源泉を突き止めたりするだけでは、十分ではありません。セッションで得られた気づきとその人らしさを尊重しながら、そういった気づきを毎日の行動や選択に置き換えることが重要なのです。
クライアントがより良い結果につながる選択を自らの責任で選び取る様子をみられるのは、コーチのやりがいと言えるでしょう。
Q:改訂前後の違いはどのようなものですか?
新版のコア・コンピテンシーを作るチームの中で、私は旧版の3つ(9,10,11)を残し、文言を整理することを主張したのですが、結局一つになっていますね。しかし、旧版の3つの内容は新版のコア・コンピテンシーにしっかり生きています。
例を使って説明しましょう。
例えば、セッションの中でクライアントに大きな気づきがあったとします。クライアントには明らかなエネルギーの変化が感じられ、新しい可能性に目が向いているような状態です。
これは旧版では「09. 行動のデザイン」に当てはまるところでした。新しい気づきを味わって、その気づきから生まれる新たな可能性を探っていきます。セッションに持ち込んだ状況だけでなく、人生の全体を動かすような新たな行動の可能性を探っていきます。
「10. 計画とゴール設定」は、クライアントの主体性を育むことに関する内容でした。ここでは、「あらゆる可能性の中で、私の人生全体にとって、これが一番優先度が高そうだ。いつ、だれと実行するのが良さそうだ」といったことを、クライアント自身が語っていきます。
次に、旧版では「11. 進捗と説明責任の管理」に入っていきます。この段階は、クライアントが全てがクリアになった状態でセッションを出られるように支援する部分です。
アクションプランとして、何をいつまでに実行するか、セッションでの気づきと行動はどう結びついているか、この新しい行動を実行したら人生がどうなりそうか、何が起きたら成功とするか、などすべてがはっきりわかった状態になるよう支援します。
このように、旧版の09, 10, 11のコア・コンピテンシーの内容は、新版に含まれています。
良い実践
Q:メンターコーチの視点から、良い実践では何が観察できますか?
この質問に答えるには、コア・コンピテンシー全体に目を向ける必要があります。
「03.合意の確立と維持」ができていないと、ICF資格のどのレベルでも「08.クライアントの成長を促進する」を満たすのは非常に難しいでしょう。
コーチングのパートナーシップを確実に結び、維持し、何が重要なのか、何がまだわからないのか、セッション外の結果に結びつくために何をどう扱うべきなのか、セッションの中ではどんな成果が必要なのか…。このような要素がきちんと揃うと、コーチは、セッションの完了に向けての「コンパス」とでも呼べるものを手にすることができます。
コンパスがあると、「このセッションで新たに明らかになったことを使って、コーチングを始めた時に設定したゴールに対してどんなアクションプランを作れますか?」など、コーチングの契約時に同意したゴールに立ち帰ることができるようになります。
このような関わりは、責任を常にクライアントに預け、クライアントがコーチングに望む結果とセッションでの気づきをつなげる橋渡しになっています。
コーチは伴走者として、話題になっていることについて一緒に悩むことなく、クライアントが望む結果と常に繋がり続け、橋渡しをすることができるのです。
開かれた質問によって、クライアントが気づきと行動を結びつけるのを助け、セッション後にコミットできる具体的な行動に行き着くまで、対話の場を維持するのです。
優れたコーチの質問は、まるでクライアントの思考から一粒の砂金をつまみ出すような、非常にシンプルでわかりやすいもになります。クライアントの思考と最高のひらめきを止めずに進むため、セッションが終わるころにはセッションでの気づきがクライアントの骨身に染みた状態になっています。
セッションの録音やメモがなくとも、セッション自体の力でクライアントの自然な考え方、在り方にまで気づきが浸透しているのです。
悪い例
Q:新米コーチなどでこのコンピテンシーに苦戦しているセッションはどのような特徴がありますか?
コーチは問題解決が得意で、人の役に立つのが好きな人ばかりです。しかし、コーチングを効果的にするためには、コーチは親切な助っ人ではなく、実用的に役に立つ存在でありたいわけです。つまり、何をすべきかを決めることは、コーチの役割ではありません。何をすべきかを見つけようとすることさえも、コーチの役割ではないのです。
というわけで、最初のステップは、世話役や問題解決役になろうとする癖を治すことです。クライアントのパートナーとして、クライアントのリソースをいかに引き出すかにフォーカスできることが重要です。クライアントがすでに知っていることや今の状況に持ち込もうとしていないもので役に立つものに気づけるかもしれません。
そして、「役に立つ」というのは、コーチではなく、クライアントが決めることなのです。もし「こうすれば絶対いいのに!」など伝えたくなる場合でも、それを質問の形で場に出しましょう。そうすることで、責任とオーナーシップをクライアントに委ね続けることができるのです。
(週1回セッションをする場合、)セッションが終わってから次のセッションまでクライアントは6日と23時間の人生を過ごすわけですから、コーチはきっかけを与えることはできても、一緒に歩き続けることはできないということを忘れないでください。
クライアントが自分で選んだものを、クライアント自身の力で手に入れられることを、確実に支援することが重要です。
ACC, PCC, MCCにおける違い
Q:ICF資格の各レベルに求められているレベルはどのようなものですか?
駆け出しのコーチは、純粋な好奇心で対話に臨むために、問題解決のマインドセットを捨て去ることを学び、コーチ自身が答えを知らない質問を投げかけることを学びます。
駆け出しのコーチは、「今日はどの領域(territory)を探求したいですか?」と聞くように指導されます。「どんなトピックについて探求したいですか?」という聞き方もありますが、トピックという言葉は少し紛らわしいと私は思います。
コーチングでは仕事、家族、コミュニティ、人間関係など、さまざまな領域のことを話しますね。しかし、人間は全体性があり欠けるところのない存在で、創造性に満ち溢れているという人間観に立ってみると、どんな領域から対話を始めても、セッションでの探究は人生全体に開かれていると言えます。
ACCコーチは、クライアントの全体性を知ろうとして、領域についての質問や「このセッションでどんな有益なことを発見したいですか?」という質問をします。
PCCに移ると、対話の幅が広がり、「その目標が達成できたら、あなたの人生において、どんな影響があるのでしょう?」などと質問をします。
ACCの質問、PCCの質問は両方ともセッション外に関する質問ですが、セッションの中に影響してきます。
少し具体的には、PCCコーチは、「セッション外でありたい姿を握った上で、あなたの前進をサポートするために今日は何について話しましょうか?」という質問や、「あなたは、知りたかったことに気づいたことを、どのようにしてわかるのでしょう?」という質問ができます。
この問いは、感情的・身体的な反応に関するものなので、たとえば、「この人間関係に本当にイライラしてるんです!」というクライアントが来た場合は、「あなたが人間関係の中で感じたいのはどんな感情なのでしょうか?」という質問ができます。
これに対しては、「息ができるような感覚」、「平和を感じたい」などかなり個別の反応が想定されますが、テーマを持ってきた背景について話すことは、抱えていた感情から解放され、欲している状態に目を向けることを可能にしてくれます。
このように、どのような体験をしているのか、どんな状態を欲しているのか、また「あなたがセッションの外で欲する結果に近づくために、このセッションでは何が起きたらいいでしょう?」という問いによって、まだ考えていなかったことを扱うことを可能にするのです。
MCCになると、ここまで話してきたことはすべて当てはまりますが、MCCコーチが注目しているのはより隠微な部分です。
MCCコーチは、クライアントが人生をどう知覚しているのかを、深く傾聴していくのです。世界観や価値観、信念、前提、傾向、習慣はどんなものか。
MCCコーチは話題とする領域についてあまり注目しませんし、コーチングの結果についても同様です。これらは、クライアント自身がしっかり自分でわかっているものですからね。
MCCコーチが聞いているのは、以下のようなものです。
クライアントが自分の責任で行動していく中で、何を発見するのか。
クライアントは次の状況、次の文脈、次の可能性にいかに関わるのか。
いかに領域を人生全体に広げていくのか。
行動を選択する基盤となる信念や価値観はなんなのか。
何にエネルギーを使い、何にエネルギーを使わないのか。
内から湧くモチベーションはなんなのか?
クライアントの人生への関わり方の本質はなんなのか?
これらにクライアント自身がつながったとき、テーマとして持ち込んだ一つの状況だけでなく、人生の全ての領域に当てはまる気づきに至ることができます。
というわけで、MCCコーチはより洗練された関わり方であると言えます。このような関わり方の中では、コーチにとってもクライアントにとっても未知のものが立ち現れてくることがよくあります。
コーチングの対話そのものが、「知っている」という境界線を自ら越えようとするのです。
まとめ + 感想
先日、メンターコーチングを受けるなかで、「テーマ設定がしっかり決まらないと、セッションの終わり方も曖昧になってしまう」というアドバイスをもらいました。それもあって最近はセッションごとに、契約時にクライアントと握ったコーチングの目的を欠かさず確認し、今日のセッションはこの目的にどうつながるのかを握ることを意識していました。
このコア・コンピテンシーの内容はとてもタイムリーで、中でも「03.合意の確立と維持」ができていないと、ICF資格のどのレベルでも「08.クライアントの成長を促進する」を満たすのは非常に難しいという言葉が今の自分にはとても響きました。
ただ定期的に話す機会を得て自己理解を深めていく場ではなく、あくまでセッションの外の人生のために一連のセッションを重ねていくことが重要で、そのために、セッションの中の気づきが現実の行動と成長に結びついている必要がある。セッションを出るときに、クライアントは自分の人生のために今コミットできる具体的な行動が思い付いていて、それが人生にどう影響するかもわかっている。こんな状態でクライアントを送り出せるコーチになりたいなと思いました。
また、問題解決のマインドセットについても言及がありました。コーチは問題解決のマインドセットの代わりに純粋な好奇心を使って、クライアントの人生のために対話をしていくという話が出ていましたね。人間は全体性があり欠けるところのない存在で、創造性に満ち溢れているという人間観を前提としていればいるほど、問題解決のマインドセットはクライアントの自主性を奪うことになり、クライアントのためにならないのだと納得感が増すような気がしました。コア・コンピテンシーに着目すると意識から抜けがちですが、コーチングの関係性の礎となる人間観も、改めて確認しておきたいですね。
こちらは私がコーチングを学んだTHE COACHで紹介されていたコーチングの人間観です。
「生まれつき満ち足りている、全体性のある存在」って、すごくいいですよね…。コーチングの人間観、改めて大事にしたいです。
最後に、今回の動画はインタビューを受けているHarveyコーチの在り方が随所に現れ、動画を見ているだけでこの方の在り方に魅力を感じてしまう内容でした。中でも、MCCコーチの説明にあった「コーチングの対話そのものが、「知っている」という境界線を自ら越えようとする」という表現がグッときました。コーチングの対話は、単なるコミュニケーションにとどまらず、その「対話の場」そのものが力を持ち、クライアントが自らの人生に変化を起こす後押しとなるような影響を持つものなんだなあと思いました。実践の中でも、対話の場の力を信じていきたいなと思いました。
みなさんの感想もぜひコメントやツイートで教えてくださいね。
というわけで、ICFコア・コンピテンシーシリーズ、一旦こちらにて終了になります! 私自身がICFの資格試験を受ける準備として始めた活動でしたが、コーチングのことを改めて考えてみる機会になり、また楽しみにしてくれている方とも出会えて、本当にありがたかったです!
次は、ICF倫理規定か、またIOCのものか、まだ決まっていませんが、コーチング英語資料翻訳プロジェクトはまだまだ続ける予定です。何かリクエストなどあったら、ぜひ教えてください。
ありがとうございました!