ハムレット30-31 Ⅰⅲ

オフィーリア わからないわ、どう取ればいいのかしら。
ポローニアス おお、教えてやる。自分を赤ん坊だと思うて、よく聞くのだぞ。おまえはどうもあいつの愛情を金貨やら銀貨やらと思うておるようだな。贋金だというに… 安売りはいかん。さもないと、城中城下の‘話の種’にされてしまうぞ。わし共々な。いやはや、愛だとか、捧げるだとか、息切れしそうだよ…
オフィーリア 殿下は確かに強く愛をお求めになるわ。でも、正々堂々した遣り方よ、お父様。
ポローニアス おまえ達の‘遣り方’か。ああ、もうよい、もうよい―
オフィーリア その上、愛に偽りの無いことを誓って下さるのよ、お父様。天に誓って、とまで…
ポローニアス おやおや、山鴫(やましぎ)捕りの罠だというのにのう。おめでたい奴は、皆、引っかかる。わしにはな、わかっておるのだ。血潮が燃え立つ時、男はな、揺らめいて、どんなにか滑らかな誓いの言葉を溢れさすことか… この炎はな、娘よ、見たところ輝きばかりが目立つ熱だがな、燃ゆると見えて忽ち消えてしまうのだ。いいか、陽炎(かぎろい)に近寄ってはならぬぞ。
これからは、娘子(むすめご)としてのおまえの身を、アラス織の蔭に隠す如く控えめに持することだ。売り急(せ)いては、いかん。頻りに戸を敲く時は冷やかに歓迎してやることも大事だぞ。ハムレット殿はな、いいか、まだ若い。それに、おまえと違って好きなように方々歩き廻れる身分だ。その点をしかと心得て置かねばならぬ。
要はオフィーリア、あいつの誓いに耳を貸さぬことだ。あいつの誓いというのはな、額面通り受けてはならぬぞ。服の柄に騙されるではない― あいつの言葉はな、邪(よこしま)な願いの取り持ちだからな。神妙な顔つきで女衒(ぜげん)の如く囁いて、達者に巻き上げる…全く見上げた取り持ちだよ。要するに、率直に言えばだ…今後、ハムレット殿とは放恣(ほうし)の交わりを固く禁ずる。濫(みだ)りに言葉を交わすではないぞ。いいな。
よく目を凝らすのだ。そう、おまえに命ずる。さあ、もうよい―
オフィーリア そう致します、お父様―
(ポローニアス、オフィーリア、下ル)

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